テーラー吉田泰輔氏が語る、 ジャージージャケット論


テーラー吉田泰輔氏が語る、
ジャージージャケット論。


一般的に、ジャケットには布帛生地(※シャツ生地のような織物生地)を使用することが多いのですが、「+CLOTHET」では、極上の着心地とオンオフで使えるルックスを兼備するため、希少な編み機「バランサーキュラー®︎」で編み立てた生地を使用しています。ジャージー生地は伸縮性に優れる分、美しいシルエットを実現するのには技術が必要。今回は、ジャケットの監修を務めたテーラー・吉田泰輔氏に製作の苦労やこだわりをお聞きしました。



__最初にバランサーキュラー®︎で編み上げられた生地を見た時の印象を教えてください。

正直なところ、はじめはジャケットの生地としては頼りないと思っていました。柔らかいジャージー生地で作ってしまうと、寝巻きのような見た目になってしまう可能性があるので心配していました。


ところが、実際に製品として仕上がってきたものを見ると、かなり布帛に近い質感だったので驚きました。バランサーキュラー®︎生地の素晴らしさや可能性を感じましたね。


__ジャージー生地でジャケットを作る際の難しさを教えてください。

生地に横ハリがないので、どうしても着用した時にダレてしまう出来上がりになってしまいやすいです。また、基本的なことですが、地糸が切れてしまったり、アイロンがなかなか効かないという欠点があります。


一般的な上着の工場であればミシンで仕付けたりするのですが、それも穴が空いてしまうのでできない。型紙段階である程度アイロンワークがなくても形になるように意識しなければいけません。今回もサンプルが上がってきた時に、工場の職人さんの苦労されている部分を想像して、型紙を修正しました。




__逆に、ジャージー生地だからこそ表現できることはありますか?

やはり、縦横の伸縮性ですね。これは布帛生地では絶対に表現できないです。ですが、テーラードの技術者にとって、ジャージー生地に抵抗がある方も多いんですよ。


ジャケットたるもの布帛で動きを追求するのが一番だという話になりがちなんですが、私は生地の魅力を生かしてテーラードの技術を落とし込めば、もっと現代のライフスタイルに合ったものができると思っています。


__吉田さんのように柔軟な考えのテーラーさんは希少ですよね。

そうかもしれません。とくにこの業界ではご年配の技術者の方が多いので、食わず嫌いではないですが、ジャージー生地自体にあまり触れられたことのない方が多いです。ストレッチ素材すら認めないという方も少なくはないですよ。




__この数年で市場にジャージー生地のジャケットが爆発的に増えましたよね。イタリアのブランドさんでも、ストレッチ入りの生地を積極的に取り入れているような気がします。

そうですね。高級ゾーンのブランドさんも当たり前のようにジャージー生地やストレッチ入りの生地を使っているところが増えています。この流れは止められないですよね。


__吉田さんは普段、ジャージー生地のジャケットを着られますか?

正直に言うと、あまり着たことがないんです。いつも着たいなぁとは思っていたんですが、布帛に近いしっかりとハリのある生地がなかなか見つからなくて……。


今回+CLOTHETのジャケットに使用したバランサーキュラー®︎生地のようなジャージー生地が手に入るなら、自分でもどんどん作っていきたいとは思っています。私の技術とポテンシャルの高いジャージー生地を組み合わせた時に、どんな化学反応が起きるのか、とても興味があります。




__では、今回のジャケットがその第一弾ですね。

そうですね。ラペルの返りが決まらず、着た時にカーディガンのようになってしまうことを懸念していたのですが、想像以上にドレス顔で仕上がってきました。ほどんど芯も入れていないので、本当の良い生地だということを実感しましたね。


いわゆる、ジャージージャケットというカテゴリーの中で、ここまできちんと仕上がっているジャケットはなかなかないのではないでしょうか。工場の職人さん達も本当によくやってくださいました。


__吉田さんにとって、一番気に入っているポイントを教えてください。

前身頃の落ち感ですね。日本には、昔からまっすぐ落とすという伝統があるので、こういう考え方を取り入れている型紙も少ないんです。ですが、100〜200年ほど前のヨーロッパの型紙を調べると、外へ逃がすような落ち感の設計が主流なんです。


トルソーには鎖骨や肩甲骨がないので、人間の凸凹を排除した形に合わせると、着た時に生地が持ち上がり窮屈な印象になります。




だからこそ、前身頃を外に逃すような設計にすることで、着用感を快適にし、よりシャープな見た目にすることができます。


このジャケットは、ボタンを開けて着た時に外へ逃げていくような雰囲気を表現したかったのですが、かなり実現できたと思っています。きっちりボタンを閉めずに着用してもキマって見えるので、ビジネスシーンでも問題なく活用して頂ける自信作です!




Photography:Yuco Nakamura
Edit:K-suke Matsuda