“もったいない”から価値を生み出すリサイクルプロジェクトを始動

リサイクルスビンTシャツ

使用済みの衣服や生産の過程で生じてしまう生地の端切れなどを回収し、原料として再利用する動きが活発化しています。従来はもとの生地より表面の粗い生地になってしまうため、軍手や帆布などでの活用がほとんどでしたが、世界的なサステナビリティへの関心の高まりもあり、最新の紡績技術によって糸の品質が向上。今回は、+CLOTHETのスビンプラチナムTシャツを生産する際に発生する裁断くずを使ったリサイクルプロジェクトを追いかけました。

年間約1トンの裁断くずが発生


生地の面積に対してパターン(型紙)がどれだけ効率よく収まっているかを収率といいます。+CLOTHETの顔ともいえる「スビンプラチナム」のTシャツではそれが平均70パーセント。残りの30パーセントはこれまで裁断くずとして廃棄処分されていました。ざっと計算すると、年間1万枚売り上げるこのベストセラーから発生する裁断くずは1トンあまり。せっかくの素晴らしい繊維がこれだけムダになってしまうのはあまりにもったいないとの思いから、以前から+CLOTHETの企画チームではなんらかのアクションを起こそうと模索していました。


テーラードTシャツのパターン

型紙(パターン)づくりはデジタルで行うCADを利用して効率化を図っていますが、曲線の多い「テーラードTシャツ」では、それでもムダが生じてしまいます。


+CLOTHETのメンバーが社内のR&D(研究開発)部門を通じて、ナイガイテキスタイルのリサイクルシステムを知ったのは3年ほど前。すぐに取り組みを開始したいと思ったものの、いかんせん原料となる裁断くずのストックがありません。そこで、取引先の縫製工場にプロジェクトの意義を説明し、協力を依頼。集めた裁断くずは手作業で色別に仕分けて保管しなければならず、手間は増えてしまいますが、約1年かけてそれを回収しました。


スビンプラチナムテーラードTシャツの裁断くず

これまで廃棄していた裁断くずを手作業で分別・保管。少しでも違う色が混入してしまうと、仕上がりの色が計算通りに再現できなくなるため細心の注意を払います。


実は、こうした繊維の再利用技術はいまに始まったことではなく、日本では古くから行われてきたこと。明治時代、洋装に必要な毛織物(ウール)は大変貴重だったため、使わなくなった衣類から糸を再生する技術が必然的に発展したといわれています。この再利用技術は「反毛(はんもう)」と呼ばれ、明治37年ごろに毛織物が、大正時代になると木綿(コットン)でも行われるようになりました。

多種多様な糸をつくってきたノウハウを応用


ナイガイテキスタイルのある尾州(※1)には、昔から繊維の再生文化を大切に受け継いできた歴史があります。同地域には仕分け、加工、紡績と分業でリサイクルに取り組む企業も存在しますが、ナイガイテキスタイルでは不要になった繊維の回収から、それを細かく裁断し、専用の反毛機を使ってワタ状に戻す加工(開繊)、紡績までをワンストップで行っています。

※1)日本最大の毛織物産地、愛知県一宮市を中心とした愛知県尾張西部から岐阜県西濃にかけての地域を指す。


ナイガイテキスタイル

ナイガイテキスタイルは新内外綿の紡績事業を担うグループ会社。豊富な原綿から多彩な杢色(もくいと)づくりを強みにしています。


岐阜県西部から三重県北部を走る養老鉄道の「駒野駅」に隣接する工場は、戦時中の軍需工場だった跡地にあり、趣のある建物や敷地内に伸びる線路など、至るところに当時の面影を感じることができます。杢糸(※2)づくりのパイオニアとして知られる同社では、大量生産型の工場で月に5〜6品種の糸をつくるところを、200品種つくることも可能。地道な改善を積み重ね、多様化するファッション市場に対して、多品種小ロット、クイックレスポンスを追求してきました。

※2)ファンシーヤーン(意匠糸)の一種で、2色以上の異なる色の単糸を撚り合わせた糸のこと。


ナイガイテキスタイルの工場の写真

ナイガイテキスタイルの工場は、敷地面積6万5000平方メートル、建物の延べ床面積3万6000平方メートルほど。糸づくりの準備段階にあたる前紡工程の設備が充実しているのも特徴です。


リサイクル糸の開発は、こうした多種多様な糸をつくってきた経験・知見を生かして2019年にスタート。針のついたローラーで原料を引っ掻きワタ状に戻す反毛機は、社内に設備がなかったため、もとからあった機械を改造して利用しています。コットンの反毛は、布帛などの織物を使うことがほとんどで、Tシャツのような伸縮性のある丸編ニット生地は取り扱いが難しいとされてきましたが、ナイガイテキスタイルでは創意工夫を凝らすことでそれを克服。もう一度ファッションとして表舞台に立つのに十分な品質のリサイクル糸づくりに成功しました。

リサイクル糸といっても100%リサイクルなわけではなく、反毛をしてワタ状になった原料は繊維長が短かったり、逆に長過ぎたりするため、紡績の際に新しい繊維原料を混ぜ合わせ、それを補う必要があります。なにをリサイクルするか、新しい原料をなににするかによって表情がまったく違うものになるため、それらの配合には試行錯誤したものの、それでも構想からわずか半年ほどで最初の試作糸を完成させたというのですから驚くべきスピードです。

不要な繊維をワタ状に戻す開繊の方法や、どの工程で新しい原料と混ぜ合わせるのかは独自のノウハウのため企業秘密とのことですが、開繊から紡績まで一貫して行うからこそ見つかった課題を、一つひとつ改善していった努力が身を結んだのでしょう。


リサイクルスビンの粗紡工程

糸になる手前の粗紡工程。繊維を平行にしてひも状にしたスライバー(短繊維束)を引き伸ばして粗糸(そし)をつくります。この工程でスライバーは細く切れやすくなるため、軽く捻りながら引き伸ばし、粗糸に強度をもたせます。

糸の特性を見極めた商品づくり


繊維の長さが35ミリ以上の超長綿のなかでも特に繊維長が長く、その希少性で世界トップクラスと称される「スビン」。なかでも、最高品質とされるファーストピック(初摘み)だけを糸にしたスビンプラチナムでつくった生地は、繊細でとろけるような柔らかなタッチを持ち味にしています。しかし、いくらリサイクル糸の品質が向上したからといって、同じような特性を再現するのは不可能。反毛でワタ状に戻した原料の混率は30パーセントが限界の目安で、新しい原料の割合を増やすほどきれいな糸になるものの、まったくの別物ととらえなければなりません。

実際、完成した「Recycled Suvin(リサイクルスビン)」はスビンプラチナムとは違う味わい深い表情となり、+CLOTHETではこれをいままで手がけてこなかったアイテムに挑戦し、ブランドの世界観を広げていくチャンスととらえました。


リサイクルスビンの紡績工程

精紡と呼ばれる紡績の最終工程。前紡工程を経てできた粗糸に必要な太さや強さ、弾力をもたせるために、適度に引き伸ばしながら撚りをかけます。


今回のリサイクルスビンのTシャツでは、スビンプラチナムの反毛を20パーセント、新しいスビン原料を80パーセント投入してつくった糸を、目を詰めて天竺編みで編み立てた生地を使用。ジャケットの下で美しく映えるスビンプラチナムの「テーラードTシャツ」に対して、こちらはカジュアルに一枚で着ることを想定しています。そのため、テーラードTシャツよりシルエットをひとまわり大きくして、前振り袖や裾のスリットなどのディテールはあえて排除。洗濯してもヨレず型くずれしにくいタフでコシのある風合いは、デニムやジョガーパンツといったボトムスにも似合いそうです。


リサイクルスビンTシャツ2

着込むほどに味わいが増す肉厚な質感はアメカジ風の雰囲気を醸し出します。色はホワイトのみ展開。写真は「Recycled Suvin T-shirt」


一方のソックスは、いまやビジネスシーンでも珍しくなくなったスニーカースタイル向けに以前から展開を考えていたもの。内側の前のほうをパイル地にするなど、履き心地を重視したつくりが特徴です。さらに糸の特性を考慮すると、カジュアルな裏毛のスウェットシャツやフーディー、あるいは少し粗野な素材感を生かした製品染めなどにも相性がよさそうなこともあり、今後に向けた商品づくりのアイデアがどんどん広がっています。


リサイクルスビンソックス

耐久性のある生地はソックスにも最適。色はブラックのみ展開。写真は「Recycled Suvin Socks」


+CLOTHETにとって初の試みのリサイクル糸の開発は、希少な繊維をムダにしたくないという想いが出発点。問題が山積するファッション業界のことを考えると小さなことかもしれませんが、まずはできることからやってみようというのが+CLOTHETのスタンスです。

それゆえ、“気に入って手に入れたものが、たまたまリサイクル素材でできていた”といったぐらいの感覚がちょうどいいのではないでしょうか。実際、商品化するかどうかの決め手となったのは、“リサイクル”と謳わなくても、自分たちが着たいかどうか。天然資源の枯渇への懸念や、地球温暖化の問題、さらに生産時の環境負荷を減らすための特効薬はいまのところ存在せず、それらの解決には長い時間がかかります。だからこそ、+CLOTHETはつくる側も着る側も、肩の力を抜いて、楽しみながら続けていくほうがいいと思うのです。

Photos: Tohru Yuasa



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