縫製工場「ランティエ」

 

Tシャツ一枚にかける情熱とこだわり。
職人の技術に支えられた縫製の現場。


洋服の中には、「生地を縫製すること」で生まれるものがあります。ところが、私たちが普段お店やWEBで洋服を見る際、縫製にまで想いを馳せるということはなかなかありません。それは言い換えれば、知らず知らずのうちに縫製技術の恩恵を受けているとも捉えることができます。言うなれば、縫製とは洋服における“縁の下の力持ち”的な役割。今回は、「+CLOTHET」のTシャツを手がける国内屈指の縫製工場「ランティエ」を訪ね、安藤社長にお話を伺いました。



Photography:Yuco Nakamura
Edit:K-suke Matsuda




職人のほとんどが女性。“縫製県” 秋田の歴史と背景。





秋田空港から車を走らせること約一時間。豪雪に見舞われた山道を行き、辿り着いたのは由利本荘市にあるランティエの秋田第二工場。



秋田県は現在でも“縫製工場のメッカ” として知られており、昭和の時代には国内で三本の指に入るほど縫製職人に恵まれている県だ。



昔は目立った産業に恵まれず、また共働きの家庭が多かったという背景もあり、男性は農業、女性は縫製工場で働くということが常であったという。だからこそ、腕利きの女性職人が集まり現在でも全国でトップ5に入るほど縫製業が盛えている。





「弊社で働く職人さんはもともと縫製業が盛んな地域で働いていた方ばかり。卓越した技術を持つ職人さんを集めることで、脈々と受け継がれてきた技術を守っています」



安藤社長がそう語るように、ランティエではベテラン職人の技術を大切にするだけではなく、後世へ受け継ぐために若手の育成にも力を入れている。





「ほとんどの縫製工場で従業員の高齢化が進んでいます。平均年齢が60〜70歳という工場も少なくないのですが、弊社の従業員の平均年齢は40歳前後。これから先の未来を作っていくためには、高齢の技術者の技を継承しつつ、若い人材を育てることが重要です。また、労働集約型の企業に人が集まらないということも実感していますので、重労働や危険な作業には積極的に機械を導入しています。人の知識や経験と、機械の持つ技術との相互関係の中で、適正な製品を作りあげることを常に考えています」




一貫した生産ラインによって生まれる、高品質の仕上がり。





全国的に縫製工場が減っていることもあり、縫製作業を自社で一貫して行う工場は激減。そんな中、ランティエではほぼ一貫して作業を行なっているという。



「生地が届いて、内容を確認して、裁断して、縫製して、縫製したものを検品して、プレスするという一連の流れを一つの工場でやろうとすれば、どうしても広い場所と人数が必要になります。ですが、弊社では最後のプレス作業を除き、一貫して生産ラインを作ることにこだわっています。プレス作業に関しては技術が必要なだけでなく、蒸気を使う分熱くて重く、女性にとっては過酷な作業なんです。だから、その部分を専門の工場に受託をすることで、高いクオリティをキープし続けています」





+CLOTHETのTシャツも、この一貫した生産ラインにより高いクオリティで仕上げられている。特筆すべきは、この工場が普段手がけているのはカジュアルウェアではないということだ。



「弊社が主に手がけているのは、パーティ用のドレス、オートクチュールやコレクションブランドの洋服のように、高級で繊細なタッチを要求される洋服が多いです。だからこそ、そういった洋服に求められる高度な技術を生かして、カジュアルなTシャツを一枚作るにしても、着心地やディテールの美しさ、長く着用した時の耐久性にこだわることができます」





その一方で、縫製のクオリティには常につきまとう悩みがあるという。それは、冒頭でも書いたように、店頭やWEBで見た時に消費者が品質の良し悪しを判断しづらいということ。



「難しいのはパッと見がほとんど変わらないため、販売員さんの接客なしにはこだわりがお客様に伝わりづらいということです。ただ私たちが確信しているのは、着用したり洗濯を繰り返していった時に、違いを感じて頂くことができるということ。そういった部分をもっと伝えていきたいという想いもあり、+CLOTHETの製品に取り組んでいます」




知られざる縫製技術の粋とその恩恵。



では、具体的にはどのような部分にこだわっているのだろうか。+CLOTHETのTシャツを例に、安藤社長に解説して頂いた。





Point1:裾の処理


「裾を裏返した時に、裏側の縫い代の上に二本針ミシンのステッチがきちんと乗っているのが分かると思います。これが両方乗っていることで裾が安定します。正しく乗っていないとTシャツを洗っていくうちに、折り返した部分の中にある縫い代の余り部分が膨らんできてしまうんです。これを避けるために裾の切れ端にロックミシンをかけた後、それを折り曲げて、折り曲げた端から1mmのところにちゃんと二本針ミシンのステッチが乗るようにしています」





Point2:ブランドネームタグ


「本来は両耳のあるタグをミシンでたたくのですが、+CLOTHETのタグは両端を内側に織り込み、タグの中を縫っているんです。これは非常に大変な作業で、一度ネームタグの場所を決めて上部分を仮縫いし、それをめくって中にミシンを入れて縫わなければいけません。トラディショナルな高級ブランドの洋服によく使われていた手法で、見た目が美しく、着用時に首がチクチクするのを軽減することができます」





Point3:袖付け


「セオリーとしては、袖をひっくり返した時に縫い目がぴったり十字になっていることが美しいのですが、+CLOTHETのTシャツはあえて縫い目をずらすことで立体感を出しています。このずらすという作業は、袖を筒状に縫った後にボディに付けなければいけないため非常に手間のかかる仕様ですが、着心地は高まります」





Point4:筒袖の縫い目


「袖を筒状に縫う際に、縫い代が出ず美しく見えるようにするためにも工夫が必要です。まず、袖のパーツをロックミシンで筒状にした後、そこに二本針ミシンをかけます。ところが、二本針ミシンでは返し縫いができないため、二本針の最初と最後が留まっていない状態になります。そこでほつれを防ぐために、その箇所に改めて本縫いミシンをかけています。これだけたくさんのミシンを使い分けているので手間もかかるのですが、袖部分の生地のごろつきを減らし、美しく見せることができます」





Point5:袖、肩のイセ


「“イセを入れる”というのは、長短のある生地を最終的に同じ長さにするということです。一般的には、高級なテーラードジャケットやシャツに採用される手法で、Tシャツにはあまり取り入れられない贅沢な仕様が採用されています。+CLOTHETのTシャツでは、袖の途中と山にノッチ(目印)を入れて同じ長さになるように縫い上げているので、平面的ではなく立体的な仕上がりになり着心地が向上します。この袖付けをする際には、左右逆回転で縫わなければいけないので、ノッチを入れることでイセの方向を誤ることがないように工夫しています」



このように、たとえTシャツ一枚と言えども、じつに沢山のこだわりが詰め込まれている。そして、これらを実現するためには職人の経験や技術が不可欠だ。



「よく『洋服がどのくらい人間の手で作られているか』を尋ねるんですが、実際は99%人の手で作られていると言っても過言ではありません。仮にミシンに装置をつけてペダルを踏んでいる時間を測定したら、8時間労働の中で実質45分くらいなんです」





「たとえば、単に2枚のパーツを重ねて縫うとしても、紙と違って綺麗に重ねることはとても難しいんです。綺麗に重ねて置いて、押さえがねを下ろして縫ったら、また綺麗に縫えているかを見て、機械を調整するという工程を繰り返す。この一連の作業の中で、ミシンで縫っている時間というのはほんのわずかです。もっと工程や縫う回数を減らして、楽をしようと思えばできるのかもしれませんが、やはり着用した時の感動を大切にしていきたい。だからこそ、妥協せずにこれからもこだわり続けていきます」





ランティエの技術とスピリットを存分に感じることができる、+CLOTHETのTシャツ。一度着用して頂ければ、沢山の“見えないこだわり”に気がつくはず。