TAILOR INTERVIEW|+CLOTHETが春におすすめする、ジャケットの素材とは?

昨今では、機能性の優れた化学繊維のジャケットやセットアップが好評を博しています。その一方で、現在でもテーラーの仕立てる上質なジャケットには、天然素材「ウール」が使用されています。


なぜかと言えば、ウールには保温性だけでなく、伸縮性(ナチュラルストレッチ)、吸湿性、抗菌防臭性、保形性、還元性(土に還り地球に優しいエコ素材)など様々な機能があります。さらに、生地の落ち感が美しく、テーラーの望んだ形を実現しやすいという特徴があるということから、ビジネスシーンで着用するのに最適な素材として、古くから愛用されてきました。


今回、+CLOTHETでは天然素材ウールの魅力を伝えるべく、新たなウールジャケットをリリースしました。一つは、糸の細さや織り方に工夫を凝らし、特殊加工を施すことで機能性を高めたジャケット。もう一つは、コットン素材が主流の「シアサッカー」にウールをブレンドした、新しいアプローチのジャケットです。


ウールが元々持っている機能性と新たな可能性を、ジャケットを監修したテーラー・吉田泰輔氏に語っていただきました。


Photography:Yosuke Ejima
Interview:+CLOTHET
Edit:K-suke Matsuda(RECKLESS)





Jacket Tailor
吉田 泰輔 Taisuke Yoshida


- Profile -

1984年生まれ。文化服装学院在学中に著名なビスポークテーラーの私塾に通い始める。同校を卒業後、大手ファクトリー2社に在籍したのちに独立。国内外の工場の技術指導やメーカーからの型紙作成依頼、テーラーなどプロを相手にしたセミナーなどを中心に活動。ビスポーク、工場製オーダー、高級既製服、大量生産のものづくりまで幅広いジャンルに柔軟に対応できるのが強み。



__昨今は機能性の高い化学繊維のジャケットが人気ですよね。吉田さんはそういったものを着られる機会はありますか?

じつはあまり着る機会がないんです。苦手だというわけではなくて、自分で作ったジャケットしか着ないようにしているという理由です(笑)。


__吉田さんの作られるジャケットはウールなどの天然繊維を使われることが多いということですね。

そうですね。たとえば、ウールを使うと生地の落ち感であったりシルエットを綺麗に出すことができます。生地のつながりが綺麗で保形性もあるので、化学繊維よりは思ったような形に仕上げることができるんですよ。


人間の身体は湾曲しているので、その形に合わせてジャケットを作っていくわけですが、ウールの場合はアイロンを使用して生地に局部的なふくらみを出したり、そこの部分を固定しやすいです。化学繊維には保形性がなく、生地のつながりがカクカクとしていることが多いのでなかなか難しいんですよね。


__本当に美しいシルエットや身体に合うジャケットをお探しの方は、ウールなどの天然繊維のものを選んだ方が良いということですね。

細部にまでこだわりたい方には、ぜひウールを選んでいただきたいです。今回のウールシアサッカージャケットの場合も、よくあるコットンやポリエステル混紡のシアサッカー生地よりも綺麗にシルエットを作ることができました。




__吉田さん自身も、かなり生地を気に入ってくださっていましたね。

そうですね。僕も個人的にジャケットを作りたいくらい良い素材だと思いました。シアサッカー自体、元々はボックスシルエットのカジュアルなジャケットに使われることが多いのですが、このジャケットはウールの特性を兼ね備えている分、綺麗なシルエットに加え見た目にも高級感があります。そういう意味では、カジュアルな印象になりがちなシアサッカーの弱点を補っているのではないかと。


__ウールシアサッカーのような、ウールの混紡素材にはどんな印象をお持ちでしょうか?

ウールが裏方になることで新しい素材が生まれるというのは、とても良いアプローチだと思います。たとえば、僕はあまりコットンのパンツを履かないんです。なぜかと言えば、履いているうちにどうしても膝の部分が出てきて真っ直ぐで綺麗なシルエットが崩れていくからです。しっかりとしたウール生地で仕立てたパンツであれば、一日中履いていても真っ直ぐ綺麗に落ちてくれます。そういったこともあり、コットンの風合いが欲しい時にはウール混紡の生地を選ぶことも多いです。




また、リネンも好きな素材の一つなのですが、リネン単体の生地だとどうしてもシワシワになってしまいます。そこにウールがブレンドされていると、ウール本来の保形力が加わることで、リネンの質感を残しながらシワを抑えることができるんですよね。


機能的で便利な化学繊維のトレンドはなかなか変わらないと思いますが、ウールの力をブレンドすることで、これまでになかった新しい素材が生まれ、天然繊維の魅力が見直されたら嬉しいですね。


__そうですね。実際に触れたり着用して頂ければ、魅力をわかって頂けると思うのですが、ECではなかなか伝えられないというのが課題です……。話は変わりますが、この二種類のジャケットはどのように着こなすのがおすすめでしょうか?



こちらのウール100%のジャケットは、化学繊維のものよりもドレスらしい雰囲気ですので、合わせるシャツもややドレッシーな方が良いと思います。逆に化学繊維のジャケットでは、綺麗なシャツを合わせづらいですからね。


楽に越したことはないと思うのですが、時にはしっかり決めるという場面ではこういうジャケットが活躍すると思います。改まった感じを出すことで自分の気持ちも高まりますし、周りからの印象が変わってきます。


もし、シャツ以外で合わせるのであればニットがおすすめです。Tシャツよりは、シャツやニットなど、上品な印象のものの方が相性も良いと思います。




__ウールシアサッカーの方はいかがでしょうか?

こちらは内側の芯地を省き、見返しを細くしたり、袖のボタンを一つにしたり、生地に合わせて厚みのない本貝ボタンを選ぶなど、より軽快に見えるような仕様を意識しました。また、ノーベントのデザインやステッチをあえてミシン縫いにすることで、どちらかと言えばシャツジャケットに近い仕立てにしています。




よりカジュアルなコーディネートにも対応できるジャケットですので、リネンのシャツやコットンニット、Tシャツなどを合わせるのがおすすめです。ウールの特性を持ったカジュアルジャケットなので、合わせられるアイテムのレンジも広いですよね。仕事以外でもおしゃれをしたいという時には、もってこいのジャケットだと思います。


__どちらもウォッシャブル仕様にしているのですが、吉田さんは普段ウールジャケットをどのようにお手入れされていますか?

洋服全般がそうなのですが、一番大切なのはブラッシングですね。やはり目に見えないほこりや、食べかすで虫がついてしまったりすることもあるので、習慣として着て帰ったらすぐにブラッシングして、それからクローゼットにしまうのがおすすめです。




自宅で洗ったりクリーニングに出すのも良いのですが、生地本来の持っている油分が抜けてしまったり、生地を傷めてしまう可能性があるので洗い過ぎには注意です。


とくにウールのジャケットにはアイロンのくせ取りが入っていますので、よほど手慣れたお店でないとクリーニングに出して形が崩れてしまうこともよくあります。シワや匂いが気になる時には衣類スチーマーが便利です。蒸気でシワを伸ばし、脱臭することもできますので。


天然繊維のウールを使ったジャケットは、きちんと手入れをすれば機能繊維よりも長年愛用することができますので、ぜひ春の一着としてクローゼットに加えてみてください。