特殊染色「COLD DYED(コールドダイ)」

 

繊細なコントロールで美しい陰影を表現。
再現性高難易度の特殊加工「コールドダイ」。


今回「+CLOTHET」が開発したプロダクトは、これまで無地の印象が強かったラインナップとは一線を画す色ムラのある風合いが美しいTシャツ。ブランド設立一周年を記念し、名実ともに代表商品となったテーラードTシャツに「コールドダイ」と呼ばれる特殊染色を施したものだ。





染めの時間と温度をきめ細かく調整することで、染まる箇所と染まらない箇所との美しい陰影を生み出すその手法は、仮に意図した仕上がりになったとしても再現することが非常に難しいのだという。手がけたのは、岡山県児島市にファクトリーを構える「晃立」。藤川氏を訪ね、児島のモノづくりの歴史と「コールドダイ」のこだわりを語って頂いた。


Photography:Yuco Nakamura
Edit:K-suke Matsuda




デニム聖地・児島が持つモノづくりのルーツ。



岡山県倉敷市児島は、デニムづくりの聖地として広く知られている。ひとたび駅に降り立てば、エレベーターや自動販売機など至るところにジーンズがプリントされているし、構内には超特大ジーンズが鎮座。駅前や観光スポットとして有名な“ジーンズストリート”には、たくさんのジーンズが宙吊りに飾られ、瀬戸内海の風になびいている。





このように街ぐるみでジーンズを打ち出しているが、その背景には日本にジーンズが普及されるはるか前から根付いていたモノづくりの歴史があると、藤川氏は言う。



「みなさん、児島=デニムと思われていますが、モノづくりのルーツは江戸時代に旅行商人が荷物を結ぶ時に使っていた真田紐にあると言われています。その後、足袋をつくるために機械化が一気に進み、作業着や学生服なんかも手がけるようになったそうです」





「じつは今でも学生服が一番の産業となっているのですが、昭和40年代頃は生地の販売先が限られていました。その結果、作業着に代わるものは何かないだろうか、と考えた末にビッグジョンなどのジーンズメーカーが誕生したそうです。元々学生服や作業着を作る文化があり、モノづくりとしての土壌が育っていたということとジーンズ制作の親和性が高かったのかもしれません」





そもそも岡山県の中でもなぜ児島地域は特段モノづくりの歴史が深いのだろうか。その理由は糸や生地づくりに必要な自然環境にあった。



「児島には水が綺麗な地域があります。昔は糸を織るためにものすごい量の水が必要だったので、清流があり海の近いこの地域ではかなり古い時代から繊維に親しみがあったと考えられています。また、加工や染色などに水を使うとどうしても汚水が出てしまうのですが、漁業との兼ね合いもあり法律で岡山県の中で最も厳しい水処理規定を課せられています。そういったところからも、児島地域と繊維の長きに渡る関係性を感じることができます」




パンツのプレス業から始まり、洗い・染色加工業に幅を広げる。





昭和40年に「晃立」は設立された。当時は輸出用のトラウザーや学生服のプレス&プリーツ加工からスタートしたが、その少し後にジーンズが日本に入ってきたことにより、洗いや染色加工にも取り組むことになる。





「こんなジーンズは履けないと、ガシガシに硬いジーンズを持ち込まれた方がいて、弊社にあったパンツの試験ワッシャーに入れてみたそうなんです。そうしたら、生地が柔らかくなり履きやすくなったということがあって、昭和46年頃からは児島地域では一番始めに洗い加工をスタートしたようです」







「それ以来、ジーンズの洗いはもちろん、草木染めやべんがら染めなどの特殊染色加工もいち早く取り入れ、優秀な加工職人の技術をさらに高める努力を続けてきました」




生産リスクの高い特殊染色加工「コールドダイ」。





現在じつに様々な染色加工がありその技術が高められている一方で、革新的な加工方法は久しく生まれていないのだという。



「染色加工の世界では、ここ30年間バイオ加工が主流になっており、革新的な加工というのは正直生まれていません。どちらかと言えば、既存の手法を改良したり見せ方を変えるという方向へ向かっています。コールドダイもその一つで、真新しいというわけではなく既存の染色方法から派生して生まれました」





「本来染めというのは、温度を高温にすることで糸の芯まで染めるということが前提となります。コールドダイの場合は、その名前の通り低温で染めることによってあえて糸の芯まで染めないという手法です。釜の中でもあまり撹拌しないので、縫い目など生地の厚い部分には染料が入らず、ベタッと染まる通常の製品染めとは異なり陰影感のある表情に仕上げることができます」





ところが、その一方で非常に難しい染色加工方法でもある。加工自体は10年ほど前から存在していたが、あまり普及しなかった理由の一つに生産側のリスクが大きいということがある。



「本来は糸の芯まで染めるはずの染料を、あえて途中の状態で止めているわけですから、堅牢度とのバランスを考慮しなくてはいけません。そのためにはかなりの技術と経験が必要になります。また、一点一点の風合いやムラの具合をキープするのが非常に難しいです。もし中でTシャツがねじれてしまったら、その一枚だけ仕上がりが変わってしまいますからね。途中でワッシャーを止めてTシャツを手作業でほぐさなければいけない上に、長い時間回してしまうと染まりすぎてしまうので、時間のコントロールにも気を配らなければいけません」





「そういった様々な理由でコストが高くなってしまうこともあり、技術としては少し前からあったものの、国内ではこの加工の製品はなかなか出回っていないんです。作り手側にとってのリスクが高いですからね。繊維や生地のプロフェッショナルが手がけるブランドだからこそ実現できるプロダクトと言っても過言ではないかもしれません」



藤川氏の言葉通り、生地へのこだわりを掲げる「+CLOTHET」の周年にふさわしいプレミアムなTシャツが誕生した。研ぎ澄まされた技術と歴史に裏付けられた経験が可能にした「コールドダイ」加工。ぜひこの機会にあなたのクローゼットに加え、美しく絶妙な陰影感を楽しんでいただきたい。