創業130年 老舗帆布ファクトリー「タケヤリ」


約50年の時を経て復刻。
倉敷のものづくりの歴史と魅力を語る生地「備前壱号」。


ビジネスマンにとって、トラウザーに欠かせない条件はタフではき心地が良いこと。そこで、「+CLOTHET」では、岡山県倉敷市にある創業130年の老舗帆布ファクトリー「タケヤリ」が開発した生地「備前壱号(びぜんいちごう)」を採用したトラウザーを製作。高密度で織り上げたツイル地はタフさと上品さを兼備し、抜群の肌心地を誇ります。そんな「備前壱号」が生まれた背景をタケヤリの賀川氏に語っていただきました。



昭和40年代に忽然と姿を消した幻の生地。


【備前壱号】の前身となるのは、昭和初期に開発された高密度のツイル生地。当時は壱号だけではなく、参号、五号とシリーズがあり、その特性により使い分けられていたという。


「昭和初期の頃は、小学校、中学校、高校ごとに学生服の生地を替えていたんです。その中で、【備前壱号】は硫化染めを施し、主に中学生のズボンに使われていたと言われています。この生地は40/30双糸で織られており、糸の太さも打ち込みの本数も他の生地と比べて圧倒的に強いんです。中学生は小学生に比べてパンツの扱いが雑になるということで、『より強靭な織物が欲しい』というリクエストに応じて生まれたようです」



なんと【備前壱号】の出自は学生服であった。そうは言っても、もともとこの分野は倉敷の専売特許ではなかったという。


「そもそも学生服は北九州の小倉地方で作られていました。倉敷はどちらかと言えば、下請けの方が多かったらしいです。そのうち、次第に小倉織の供給が間に合わなくなってきたため、学生服の生地や帆布など高密度の織物が倉敷の産業として栄えたと言われています。デニムや地下足袋、船の帆などは今でも作られていますよね」



このような背景があり倉敷は高密度織物の産地となる。そして、ここで開発された【備前壱号】は好評を博し広く普及した。ところが、不運にも時代の流れに飲まれ姿を消すことになる。


「昭和40年までは【備前壱号】はものすごく売れたと聞いています。しかし、その反面であまりに売れるため粗悪品が出回るようになってしまったんです。そして、生地の名前は同じにも関わらず、品質が悪いものもあるということで、次第に売れ行きが下がっていきました。そんな中、化学繊維が台頭してきたことで学生服などの生地まで替わってしまい、【備前壱号】は姿を消したと言われています」



単なる復刻ではなく、現代仕様にアップデート。



昭和40年ごろに市場から消えてしまった【備前壱号】だが、それから約50年の月日を経て2000年代後半に復活を遂げることになる。その試みに挑戦したのが、賀川さんの元上司だ。


「化学繊維が伸びている現代だからこそ、それに負けない【備前壱号】を復刻したいという想いを持った元上司が、奇跡的に昔の生地サンプルを持っていたんです。そして、約10年前に復刻に取り組みました。しかも、ただ復刻するだけでは意味がないので、弊社の得意分野である、『太番手の糸を高密度で織ることができる』ということを生かし、当時よりもさらに密度を上げてアップデートすることにしたんです」




国内屈指の帆布ファクトリーであるタケヤリの技術と設備を持ってこそ、【備前壱号】の復刻は実現した。そこには、長年作り続けてきた帆布のノウハウがかなり生きているのだという。


「まず、弊社にあるベルギー製のシャットル織機がないと、ここまで高密度に織ることはできないんです。ギチギチに織り込んでいくのですが、たまに織機から火が出ることもあるくらいなんです。世界規模で考えても希少な古い機械ですので、機械の熱が上がりやすいんです。とくに綿花は天然の油を持っているので、引火しやすいんですよ。火が出たらすぐに燃え上がるので何度か火事になりかけたこともあります。機械を扱う職人の技術も必要ですので、帆布という高密度の織物を扱う弊社だからこそ【備前壱号】をアップデートして復活させることができたと言っても過言ではないと思います」




天然繊維の魅力を最大限に引き出した、肌触りと風合い。



タケヤリで使用しているシャットル織り機には、作業工程でのデメリットも大きいという。


「シャットル織機は、現代の織り機と比べてとんでもなく織るのに時間がかかります。たとえば、1日12時間稼働としても30〜40メートル程度しか織ることができないですね。通常の織り機では、1日300〜360メートルくらいではないでしょうか。さらに、生地幅も狭いので洋服を作る側からしても都合が悪いんです」



では、そんなリスクのある製法になぜこだわり続けるのだろうか。


「たしかに、時間も手間もかかりますが、じっくりと織り上げていく分、生地の風合いやしなやかさは格別に良い仕上がりになります。それに、高密度に打ち込んでいるので、生地がタフで上品な印象になるんです。天然のコットン100%とは思えないくらい肌触りもなめらかなので、トラウザーとしての穿き心地も最高に良いのではないでしょうか。もちろん、機械のすごさだけではなく、生地の端を整えたり、入念に検反したりと、職人さんの経験や技術が必要になってきます。本当に時間も手間もかかるので、他社さんでは絶対に真似できないと思いますよ!」



備前地方のモノづくりの歴史とタケヤリが長年受け継いできた技術により現代に蘇った【備前壱号】。「+CLOTHET」の提案するトラウザーで、ぜひ一度その真価をお試しください。





Photography:Yuco Nakamura
Edit:K-suke Matsuda