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2020年の登場以降、快進撃を続けてきた「イージートラウザー」が、この秋リニューアルします。なぜ根強い人気を誇っているパンツに、あえて手を加える必要があったのか。そこには、+CLOTHETのパンツを監修するテーラー・五十嵐徹氏の揺るぎない信念と、飽くなき探究心がありました。※五十嵐氏のインタビュー動画を公開中。この記事とあわせてご視聴いただくと、今回のリニューアルに対してより深い理解が得られます。動画はこちら>
蓄積されたデータを更新
「服のバランスは時代に応じて変化するもの。だから、いまのままの型紙を使い続けるといずれ古くなるという危機感がありました」
そう語る五十嵐徹氏はビスポークトラウザーズメーカー「IGARASHI TROUSERS」の代表にして、+CLOTHETにおける「イージートラウザー」誕生の立役者。山梨と東京にあるIGARASHI TROUSERSの自社工房では、たった6名の少数精鋭のスタッフが、年間2,000本ものパンツを仕立てています。
1987年生まれの五十嵐徹氏は、大学在学中にテーラリングの修業をスタートし、2014年にトラウザーズ専門のビスポークハウス「IGARASHI TROUSERS」を創業。人体の構造や普段の生活のくせなどを考慮したオリジナルの型紙によるパンツづくりに定評があり、日本国内だけでなく、アジアや欧米でも支持されています。
「IGARASHI TROUSERSは、お客様一人ひとりの要望に応じて究極の一本をつくるオーダーメイドのブランドですが、その一方で集めたデータを活用して、自社でレディ トゥ ウェア(既製服)の製造・販売も行っています。そのため、万人に向けた既製品の型紙がどうあるべきか、常に自分たちの目で検証しながら改善を続けることができるのです」
イージートラウザーの登場から3年弱。その間も、蓄積されたデータの分析を進め、さまざまな型紙を試しては、少しずつ更新を繰り返してきました。
「2014年創業のIGARASHI TROUSERSは、若いスタッフが中心のため、経験を積めば積むほど技術の習熟度が増し、それぞれが創意工夫をして仕事のクオリティとスピードを上げていきます。そんななか、従来のものよりも効率よく、はきやすさとシルエットの美しさを両立させる型紙のつくり方が考案できたので、今回のリニューアルに踏み切りました。
ミリ単位ではき心地が変わるパンツ
既製のパンツでは通常、ヒップにたるみが出ないように、股の縫い合わせ部分(下写真参照)で後ろ身の生地を短くしたり、引き上げて縫うことがほとんどです。しかし一般的に、生地(織物)には斜め方向に伸ばすと、逆方向に伸びない性質があり、後ろ身を引き上げて縫ってしまうと前の膝の部分の伸びが消えて動きやすさを損なってしまいます。
パンツは、左右の前身と後ろ身の合計4枚の生地で仕立てるシンプルな構造ゆえ、幅を数ミリ変えるだけでまったく違うものになってしまいます。特に、4枚の生地が重なる股の部分は、はき心地を左右する最大のポイント。商品は「Matte Twist Easy Trousers」
そこで+CLOTHETでは、これまで五十嵐氏の監修のもと、後ろ身が少し長い型紙を使い、アイロンワークで生地を縮めてから縫う方法を採用していましたが、サマーウールのような薄手の生地では、湿気を含むと元の長さに戻ってしまい、股の部分がたるんでしまうため、以前から改善策を模索していました。
「新しい型紙では、股の部分にくる生地の“前身の形状”と“後ろ身の長さと高さ”を変更し、前後の生地の長さを完全に同寸にしました。これらを変えることにより、動きやすさは従来のまま、どんな生地を使ってもきれいに仕上がるようになりました。さらに前後同寸で縫いやすくなったため、縫製での失敗が少なくなるメリットもあります。いまではIGARASHI TROUSERSでもこの縫い方に変えています」
パンツは4枚の生地で仕立てるシンプルな構造のため、最良のバランスを見つけ出すのが難しいといわれています。そんなミリ単位での調整がはき心地に大きく影響するパンツで、各部5ミリ以上を調整し、合計で1センチ以上の変更となる今回のリニューアルは大きな挑戦でした。ただ、クラシックを規範とするビスポークの世界では、縫い方を変えたからといって見た目が大きく変わることはありません。
「ジャケットのアームホールが大きいと腕が動かしにくいのと同じように、パンツの股部分のつくりにはそれと似た効果があります。腰周りのフィッティングを小さくしたわけではなく、正しい位置にくるように角度を調整したのですが、それを実感できるのは、やはりはいていただいたとき。変な引っかかりがなく、下半身がすっぽり入りやすくなっていると思います」
左が旧モデルで、右が新モデル。新モデルではこれまで以上に体型を問わずきれいにはけるようになっています。股の部分のたるみがなくなっているのは一目瞭然。商品は「Matte Twist Easy Trousers」
進化し続ける定番
脇のラインに丸みを出したのも、今回のリニューアルのポイントです。もともと、数値的なサイズよりもすっきりとスタイルをよく見せるパンツは、五十嵐氏の最も得意とするところですが、これまでの型紙が直線よりの細くてはきやすいものだったのに対して、少しゆとりがあっても細く見えるパターンにつくり直したといいます。
「型紙上は外側に向かってカーブしていますが、はいたときにプリーツの分量として前に出るようにしています。基本的に前方向へのゆとりをもたせる設計なので、シルエットが太くなったようには見えず、さらに動きやすくなっていると思います。この部分の調整に伴い、わたり、ヒップ、膝、裾のバランスを整えて、よりきれいなナチュラルテーパードに見えるように仕上げました。ビスポークとはいえないまでも、よりIGARASHI TROUSERSが採用している型紙に近くなっています」
左が旧モデルで、右が新モデル。体型によっては旧モデルのほうがフィットする人もいるそうですが、新モデルでは腰周りに少しゆとりをもたせてストンと落ちる美しいシルエットを実現。商品は「Matte Twist Easy Trousers」。
IGARASHI TROUSERSのビスポークでは、人体に沿って立体的に仕上げるためにアイロンワークを多用しますが、既製服では生産効率やコストがネックになり、同じやり方をするわけにはいきません。ところが、五十嵐氏は「それをやらなくても済むように、縫い合わせれば立体的になるような型紙にしてしまえばいいのです」と、こともなげに語ります。さらには「丸みがあっても縫いやすい線のつくり方があるので、工夫次第で量産に向く型紙にすることができます」とも。
普遍的であることが美徳とされるクラシックの世界では、伝統を重んじるあまり変化を好まない風潮がありました。とはいえ、時代が変われば、人々の生活スタイルや体型、そして価値観も変化します。ましてや移り変わりの早い現代では、その動きについていけなければ、あっという間に取り残されてしまうでしょう。
そんななか、五十嵐氏の柔軟な発想と行動力は、停滞しているように見えるメンズファッションを突き抜ける可能性を秘めています。五十嵐氏のクリエイションは、絶えず進化するクラシック。たとえ、“定番”と呼ばれるほど高い評価を受けたとしても、そこにいつまでも立ち止まっているわけにはいきません。それが五十嵐氏の信念であり、その原動力となっているのが飽くなき探究心。+CLOTHETと五十嵐氏の冒険はこれからも続きます。
リニューアル後の第一弾は「Matte Twist Easy Trousers」(下左)と「Reactive Denim Easy Trousers」(上左・上右)が登場。その後、「French Corduroy Easy Trousers」(下中・下右)を発売予定です。 Photos: Teppei Hoshida
リニューアルしたイージートラウザー、第一弾はリアクティブデニムとマットツイストイージートラウザーの2種類です。
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