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「スビンプラチナムベロア」誕生ストーリー
誕生まで膨大な時間を費やした「スビンプラチナム裏毛」の開発では、この原料を使った生地を起毛させると風合いがさらに際立つという発見がありました。そこで+CLOTHETでは和歌山にある協力工場と、その特性を生かした新たな素材づくりを開始。なめらかで光沢のある「ベロア」に狙いを定め、これまでにない高級感のある艶やかなコレクションが完成しました。
スビンプラチナム原料を使った丸編みニット(ジャージー)の開発は、これまでヤマヨテクスタイルと取り組んできましたが、「ベロア」の生産には特殊な技術と設備が必要となります。しかも、国内でそれに対応できる工場は数えるほどしかなく、工程ごとに細かく分かれている分業制が一般的です。そんななか、生地の編み立てから染色、仕上げの工程まで、一貫体制で行える青野パイルは希少な存在。ほかでは真似できない付加価値の高い素材づくりで、国内外のハイエンドブランドからの指名も多いといいます。
青野パイルがあるのは、和歌山県北東部の高野口。世界遺産の高野山に麓に位置するこの地域は、江戸時代から織物産地として栄えてきました。明治の初めには地元の前田安助がスコットランドで製造されたシェニール織をもとに「再織(※1)」という特殊織物を創案。大正初期には、さらに技術研究が進んでパイル織物へと発展し、現在では日本で唯一のパイルファブリックの産地として、世界的に見ても珍しい産地を形成しています。ここでパイルとベロアの関係に触れておくと、ベロアはパイルの一種で、パイル編みでできたループの先端を加工でカットしたものがベロアになります。
※1)一度織り上げた生地をタテに細かく裁断してモール状の糸をつくったあとに、その糸を今度はヨコ糸に使用して再び織り上げた特殊織物。
1961年創業の青野パイルが、ベロアを手がけるようになったのは95年から。地域の工場が跡取りがいなったことからシンカーパイルとシャーリングの技術を受け継ぎ、現在に至ります。
工場に入ると、ガシャンガシャンと大きな音を立てながら数台の丸編み機が稼働していました。ここで1時間かけて長さ7〜8メートルのパイル生地を編み立てていきます。その後、シャーリング機と呼ばれる専用機でループをカットし、染色してから風合いを整え、さらに仕上げのシャーリングカットを施します。実はベロアの製造では、このシャーリングカットが最も難しい工程といわれ、仕上がりの美しさを左右する大事なポイントになっています。
今回の開発のベースとなったのは、パイル専用の丸編み機でシンカーを用いて編み立てた「シンカーパイル」と呼ばれる生地。シンカーパイルは、生地の土台となるグランド糸とパイル糸で構成され、伸縮性に富むのが特徴です。ちなみに、シンカーというのはループを形成するために編み機に設置する板状の部品を指します。
現在、市場に流通しているベロアは、コスト面を考慮して、グランド糸にポリエステル糸を使い、薄く軽く仕上げたものがほとんどですが、+CLOTHETがこだわったのは、しっかりとした質感と、美しい見た目、そして高級感のある艶でした。
100%スビンプラチナムを使えば、それが実現できると確信していたものの、すべてコットンでつくると、パイルでは問題がなくても、ベロアにすると生地にハリがなく、糸抜けなどのトラブルが起こりやすくなります。しかもスビンプラチナム糸は、一般的なコットンベロアで使われる糸よりも圧倒的に細く、青野パイルにとっても前例のない挑戦でした。
そこで、糸にテンション強くかけながら目を詰めて編む「度詰め」をして、そうしたトラブルを回避しようとしましたが、当初予定していた36ゲージ(※2)の編み機では高密度には編めても、そこからの調整が難しかったため、あえてゲージ数をダウン。28ゲージの編み機で徐々に目を詰めていき、詰められる限界まで調整してパイルの起き上がりや接地面が安定する適正値を探りました。
※2)編み機の1インチ(2.54センチ)中の針の本数。針本数に比例して高密度に編み立てられるが、針への負担が多きく、職人のノウハウやメインテナンスが必要になる。
青野パイルでは、合計28台の丸編み機が稼働しています。そのうち、28ゲージの編み機は3台。度詰めは、糸のテンションを上げ過ぎると糸目が飛んだり切れたりするため、職人の手による調整に仕上がり具合は左右されます。
分業の場合、ここでできたパイルの生機(※3)をシャーリング加工ができる工場に送ることになりますが、移送中にたたんだり広げたりするなかでシワになり、カットが困難になってしまうことがよくあります。その点、青野パイルでは編み立てたばかりの生機をすぐにシャーリングカットにまわせるため、無駄がないうえカット後の試作結果がわかるのもすぐ。パイルがきれいに起き上がった状態のまま、刈り込めるのが大きな強みになっています。
※3)できあがったままの生地。「原反」とも呼ばれ、染色や加工などが一切施されていない状態の布地を指す。
シャーリングの工程は、機械に設置されたロール状のカッターが回転して、毛足を調整していきますが、その刃が均一に研がれていないと長さに誤差が生じてしまうため、日々のメインテナンスには繊細な感覚が必要となります。カッターの幅は3メートル弱あり、刃の高さなどを数値化して知らせる計測器は付いているものの、最終的に頼りになるのは人間の目。同じ機械を使っても、職人の知識と経験が技術力の差につながります。
青野パイルのシャーリング機を操る職人はふたり。いずれも50歳以上で、ベロアの生産における、今後の技術継承が危ぶまれています。
ベロアの場合は、コンマ数ミリのチューニングをしながら刈り込んでいく力量が求められると同時に、糸が細くなるほどカットが難しくなるのも厄介です。そのため、通常は生機のレベルでカットするのは1回のところを、スビンプラチナムでは2回カット。ほかにも、度詰め生地は染まりにくいなど、手間と時間がかかる部分はありましたが、生地ができあがるまでかかった期間はわずか約40日と、驚くべきスピードで完成までたどり着きました。開発に携わった青野パイルのスタッフは、そのいちばんの理由をスビンプラチナムの糸質のよさにあると語ります。
「反応染色」と呼ばれる、繊維と化学的に反応して染着する染色法を採用。美しい発色と、洗濯に耐え、日光にも強いといった特徴があります。
最初、2.7ミリあったパイルは徐々に刈り込まれ、真っ黒に染め上がった生地に仕上げのシャーリング加工を施すと、ベロア面にまるでシルクでできているかのような美しい光沢が生まれました。最終的な毛足の長さは1ミリあるかないか。高級原料を使った生地をここまで削ぎ落としてしまうのは贅沢の極みともいえそうですが、このラグジュアリーな雰囲気をまとった艶やかな表情は、やはり100%スビンプラチナムを使った影響が大きいのは間違いありません。
染色後はドラム式のタンブラー乾燥機で乾燥させることで、毛をきれいに起こして、ふっくらとボリューム感のある仕上がりに。仕上げのシャーリングカット前に不可欠な大切な工程です。
シャーリングによって、スビンプラチナムの輝きが増したのは、まさに狙い通り。従来のベロアとは一線を画す風合いに、原料の素晴らしさが色濃く反映されています。今回は、フーディやスウェットシャツ、スウェットパンツなどをラインナップするスモールコレクションとして展開としますが、これはまだ今後の起毛素材の開発に向けての入り口に過ぎません。+CLOTHETの考える、スビンプラチナムのポテンシャルは無限大。素材のもつ力を最大限に引き出し、メンズファッションにおけるドレスカジュアルの領域を切り拓く。どこまでも可能性を追い求める、+CLOTHETの旅に終わりはありません。
スビンプラチナムにおける起毛素材への挑戦は始まったばかり。今後もその可能性を模索していきます。写真は「スビンプラチナムベロアフーディ」。
Photos: Tohru Yuasa
ブランド設立当初から納得するレベルに到達できず何度となく商品化を見送っていた裏毛のコレクションがついに完成しました。誕生まで膨大な時間がかかってしまったのはなぜなのか。その背景を探るため、+CLOTHETの協力工場がある和歌山を訪ねました。
2022年秋冬クロスクローゼットが新たに提案する素材、URAKE(裏毛)が開発に5年の歳月をかけついに完成しました。程よい厚みと安定のソフトな肌ざわりに加え、従来のモデルに比べ少しゆとりのあるシルエットは新たな定番の誕生です。
新アイテムが発売される度に話題のスビンプラチナム裏毛シリーズにモックネックスウェットシャツが登場です。モックネックはTシャツでも人気ネックラインが美しく見えるデザインで、1枚で着ても品よくまとまるのがポイントです。
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