スウェットの常識を塗り替える独創的な「裏毛」が誕生

スビンプラチナム裏毛スウェットシャツとフーディ商品画像

ブランド設立当初から青写真を描いていたものの、納得するレベルに到達できず何度となく商品化を見送っていた「裏毛」のスウェットコレクションがついに完成しました。スウェットでは最もポピュラーな生地にもかかわらず、誕生まで膨大な時間がかかってしまったのはなぜなのか。その背景を探るため、+CLOTHETの協力工場がある和歌山を訪ねました。



世界にもその名を知られるスウェット生地の聖地


和歌山のニット生地生産発祥の地であり、現在もその中心である和歌山市三葛。西国三十三所第2番札所である紀三井寺を見上げる場所に、丸編みニット生地(ジャージー)製造において、国内屈指の技術力をもつヤマヨテクスタイルの工場があります。


ヤマヨテクスタイル看板

ヤマヨテクスタイルでは約170台の丸編み機を稼働し、小ロット多品種にも対応。ハイゲージの編み機を豊富に取り揃え、シーズンごとに倉庫に保管している別の編み機と人の手で入れ替えます。


+CLOTHETとのスビンプラチナム原料を使った取り組みは、以前の記事「究極の生地づくりへの挑戦」でもお伝えしましたが、今回の「スビンプラチナム裏毛」誕生の舞台となったのもこの工場。ひと足先に完成した「スビンプラチナムスムーステリー」と見た目は似ているものの、同じ編み機では製造できないまったくの別ものです。


当初、+CLOTHETがイメージしていた裏毛は、世界のなかでも唯一和歌山だけで稼働する吊り編み機を使った「吊り裏毛」でした。吊り編み機は1960年代半ばまで一般的でしたが、1時間に1mしか編むことができず、大量生産・大量消費の時代とともに徐々に減少。肉厚ながらふっくらとしたヴィンテージ調の風合いはこの手法でしか表現できないこともあり、現在では世界に誇るジャパン・クオリティの高級スウェット生地として知られています。


ところが、旧式の吊り編み機で編める裏毛はおよそ18ゲージ(※1)まで。+CLOTHETが主力にしている細くて長い繊維質が特徴のスビンプラチナムの持ち味を引き出すためには、この編み機で使う糸や針は太過ぎます。+CLOTHETが目指すのは、あくまでもドレスカジュアルという新領域。そこに到達するには、吊り裏毛とは別のアプローチが必要だったのです。

※1)編み機の1インチ(2.54㎝)中の針の本数。針本数に比例して高密度に編み立てられるが、針への負担が大きく、職人のノウハウやメインテナンスが必要となる。一般的な裏毛は18〜21ゲージの編み機で製造。

ハイゲージの編み機がもたらした革新


表糸と表と裏をつなぐ接結糸、ループになる裏糸の3本の糸で構成される裏毛は、そのバランスによって生地の膨らみや見た目の美しさが大きく変わります。専用の編み機を入れて終わりではなく、それを人の手でカスタマイズしながら育てていく技術が不可欠のため、効率を重視する海外の工場では一般的なスポーツカジュアル色の強いものしかやりたがらない傾向があります。


ヤマヨ編み機3

3本の糸で構成される裏毛には、編み機を扱う職人の技術力がないと独特の目詰まり感や膨らみを上手く表現できないのが難しいところ。もともと裏毛から始まった丸編みですが、実はとても奥深いといいます。


ヤマヨテクスタイルがニットウェアだけでなく、ジャージーの分野でもハイゲージの時代が来ると予見し、最新鋭の編み機を導入し始めたのが約10年前。最近はスウェットシャツでもハイゲージと呼ばれるものが増えましたが、28ゲージを超える裏毛はほぼなかった時期です。その後ほどなくして、表は繊細でありながら裏毛特有の膨らみのある生地の開発に成功。しかし、+CLOTHETの裏毛開発に携わったヤマヨテクスタイルのスタッフは、当初スビンプラチナムは裏毛に向かないと感じたと言います。

というのも、ふっくらとした質感を求めると裏糸には太い糸を用いらなければならず、スビンプラチナムのような細い糸ではループが小さく厚みが出ません。一方、裏のループを細くしてしまうと、先に開発したスムーステリーと差異化できなくなるというジレンマがありました。

立ちはだかる難題を創意工夫で克服


最初は、裏糸をスビンプラチナムではなく通常の裏毛で使われる太番手(※2)の糸で試してみましたが、思い描いていた理想の裏毛とは遠く、18ゲージの編み機で編んでもやはり満足のゆく結果は得られません。当時は、まさに暗中模索の状態。それでも、すべてスビンプラチナムの裏毛にこだわり続けた末、出口から光が差し込んだのは構想から4年が経ったころでした。

※2)番手は、紡績した糸の太さを表す単位。一定の重量に対して長さがいくらあるかで表し、綿番手、毛番手、麻番手などがある。番手数が大きいほど糸の太さは細くなる、綿番手の1番手は、重さが1ポンド(453.6g)で長さが840ヤード(768.1m)あるものを指す。


ヤマヨ編み機1

「シンカー編み機」と呼ばれる高速編み機。ヤマヨテクスタイルではこの編み機を使い、吊り裏毛とは別の現代的な高級スウェット生地を生み出しています。

突破口となったのは、創意工夫から生まれたアイデアでした。裏糸に使う太番手の単糸(※3)の代わりに、スビンプラチナムの双糸を4本撚り合わせて1本の糸をつくり、その太さを再現したのです。長い間、考え抜いたからこそ舞い降りたひらめきでしたが、これが功を奏し、直面していた難題をようやく克服。まだ誰も目にしたことのない裏毛の誕生に向けて、一気に視界が開けます。

※3)単糸は紡績した1本のままの糸のこと。双糸は2本の糸を撚り合わせて1本にした糸を指す。単糸は糸の太さにもムラがあるが、双糸は2本の糸がより合わさることでムラが均一になり強度も増す。



ヤマヨ編み機2

ヤマヨテクスタイルでは専属の研究・開発チームがシーズンごとに新しい生地の試作品を制作。ほかにはない独自商品の提案や取引先と共同での商品開発も積極的に行なっています。

初めてサンプル(試作品)を見たとき、最も驚いたのは裏地の美しさでした。精緻な綾目に配列されたループが光沢を帯びながら立ち上がり、表地にもうっすらとその表情を浮かばせています。こうした従来のジャージーにはない端整な面持ちは、やはり100%スビンプラチナムでしか実現できなった部分。裏地にまで徹底してこだわった苦労が報われた瞬間でした。


実際、目につかない部分には安くて粗い糸を使う場合は多く、それが原因で表に毛が出たり、発色が失われてしまうことも少なくありません。しかし今回の裏毛でそれらの心配が一切なかったのも、高級原料を惜しみなく使った成果でした。

裏毛フーディ首元

斜めに並んだ裏地のループが表地にも独創的な表情を与えています。こんなにきれいに綾目に浮かび上がるのは稀なこと。写真は「Urake Hoodie」

試行錯誤の末、たどり着いた極上の肌触り


こだわったのは編みの表現だけではありません。裏毛はパイル状のノーマルのままでいいのか、起毛させるのがいいのか、さまざまな方法を試すなかで、スビンプラチナムは起毛させるとさらにその風合いが際立つことが判明。ただ、専用機で繊維の表面を引っ掻いて毛羽を立たせる起毛は抜け毛が多くなり、インナーに毛が付着してしまうことがあります。

たとえ、それが常識だとしても、+CLOTHETではどうしてもこの問題を見過ごせませんでした。ドレスカジュアルという性質もありますが、ブランドの企画スタッフはそれよりも自分たちが着てイヤなものは世の中に送り出したくないという気持ちが強かったと言います。そこで、抜け毛を極力なくすために工程を見直し、掻き出す回数を徐々に減らしながら、生地の綾目が見えるくらいまで調整。そうすると、ある程度、抜け毛が抑えられることがわかりました。

起毛させた裏毛は、生地の中に空気が含まれることで柔らかさが増し、ボリュームのある見た目と高い保温効果をもたらします。しかし、手直しの過程で気がついた最大の発見は、繊細なスビンプラチナムをうっすら起毛させると、カシミヤに似たやさしいタッチに仕上がることでした。しっとりとなめらかな肌触りは、開発に携わったスタッフ全員の想像を遥かに超えるほど。今後のスビンプラチナムの展開を考えるうえで、大きな収穫となりました。


裏毛白

ループをうっすらと起毛させた裏地部分。Tシャツの上にはおってみると、カシミヤセーターのような肌触りを実感できます。写真は「Urake Sweatshirt」


また、スビンプラチナムシリーズでは、いずれの商品も染色の工程で手のかかる特殊加工を行い、生地本来の風合いを損なうことなく、エレガントな表情に仕上げています。優れた原料を使い、素晴らしい糸をつくり、ハイスペックな編み機で編んで、上質な加工を施せば良い生地ができるのは当たり前かもしれませんが、現在のファッション市場ではコスト面での折り合いがつかず、どこかで妥協してしまうことがほとんどです。


長い歳月をかけてでも、+CLOTHETがそこを突き抜けるほどの完成度を求めるのは、独自のファン層を築き、ドレスカジュアルという領域を開拓していく先導者としての矜持と決意があるからこそ。糸の仕様と仕上げの加工は、ほぼ完成のレベルに達しています。あとは編みのアイデアで、スビンプラチナムの可能性をどこまで広げていけるのか。ベーシックなメンズスタイルの常識を塗り替えるゲームチェンジャーになるという願いを胸に、これからも+CLOTHETの挑戦は続きます。


裏毛スウェットシャツとフーディ

今回の「スビンプラチナム裏毛」コレクションは、32ゲージの裏毛編み機で製造。スェットシャツとスウェットパンツ、フーディー、ジョガーパンツ、モックネックスウェットシャツの5アイテムをラインナップしています。写真は「Urake Hoodie」

Photos: Tohru Yuasa



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