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「ハイブリッドコットン」という“洗練”をかたちづくる、世界最高峰の糸加工技術とは?

糸の毛羽を焼いて落とす「ガス焼き」加工

2018年のブランドローンチとともに誕生し、いまなお不動の定番素材として支持されている名作「ハイブリッドコットン」。 ジャケットのインナーとして設計されたこのカットソーは、透けにくく適度なハリとコシをもち、多幸感ある柔らかな肌触りと艷やかで洗練されたテクスチャーを備えています。

一般的なTシャツとは、決定的に何かが違う───袖を通した瞬間に感じるその心地よい異質さの正体、それは、糸選びから仕上げ加工に至るまで、通常では考えられない常識外れなこだわり、緻密な工程の積み重ねにあります。

そんな「ハイブリッドコットン」の核心に迫るべく、私たちは大阪府南河内郡の山裾にあり、世界でも類を見ない高度な糸加工技術をもつ、豊田絲業(とよたしぎょう)を訪ねました。 そこで出合ったのは、創業89年という伝統をもつメーカーが研鑽を重ねた末に辿り着いた、「撚糸」と「ガス焼き」、「リワインド(巻き直し)」という唯一無二の職人技術。無双の境地でした。

インド産の最高級素材と、“料理”のレシピ

糸の毛羽を焼いて落とす「ガス焼き」加工

豊田絲業の代表である豊田精一郎さんに導かれ工場の扉を開けると、ゴーッという低い唸りとともに、小さく、力強い炎の列が目に飛び込んできました。 これこそ彼らが世界の頂点に君臨する、糸の毛羽を焼いて落とす「ガス焼き」加工のラインです。

「火加減、スピード、そして素材。どれかが1つでも狂えば、最高の糸にはなりません。例えば、生肉とステーキ、どっちが食欲をそそるでしょうか?  肉は肉質に最適な焼き具合により旨味と香ばしさが増し、余分な脂が落ちて味が引き締まる。糸もまったく同じなんですよ。そういう意味では料理も糸加工も、本質的には一緒なのかもしれません」

「ハイブリッドコットン」の原点は、インド最大の紡績グループから届けられる、最高品質の超長綿です。しかしガス焼き加工前の糸と加工後の糸を見比べると、その差は歴然。加工後の糸はキュッと引き締まり、表面の曇りが取れたようにクリアな光沢を放っています。

「ガス焼きをすることで、糸の重量は約6%減ると言われています。いわば、一番美味しい芯の部分だけを残して、毛羽という表面の余計な“雑味”を取り除く作業。焦げ目がつくかつかないかのギリギリを探りながら焼くことで、独特の深い色が生まれるんです」

処理前(写真左)に比べ、明らかに毛羽がなくなり、艶と深みを増している「ガス焼き」後のコットン(写真右)。

この「6%の喪失」によって得られるテクスチャーこそが、「ハイブリッドコットン」が備える接触冷感性や光沢の秘密でもあります。毛羽がなくなることで熱伝導率が高まり、肌に触れた瞬間にひんやりとした心地よさが生まれる。さらに、余分な毛羽が染料の浸透を邪魔しないため、黒はより深く、白は輝くような白へと昇華することができます。

「『ハイブリッドコットン』は、糸の“大吟醸”なんですよ」

料理だけでなく、日本酒づくりにも喩えながら自慢の糸を語る豊田さんの言葉も、スッと腑に落ちるのを感じました。

たたら製鉄の末裔が、現代の「火」を操る

「ウチは今年で、創業89年。もともとは祖父が紳士服の縫製仕立て、つまり『縫う』仕事から始めたんです」

豊田さんが語る会社の歴史は、単なる町工場の沿革を超え、日本の近代史そのものと重なります。意外なことに、そのルーツは大阪ではなく、広島の山奥にありました。

「遡りすぎると笑われますけど、元々は広島で『たたら場』をやっていた家なんです。もののけ姫に出てくる、あの製鉄所ですね」

江戸時代から続く、火を操り製鉄を行う一族。しかし、明治・大正となり西洋の近代的な製鉄技術が流入すると、古来のたたら製鉄は衰退の一途をたどります。

「家を絶やさないために、男たちは大阪へ丁稚奉公に出されたそうです。祖父は8歳で大阪に来て、チャップリンがかぶるような山高帽を作る工場で11年間修行し、19歳で独立しました」

帽子づくりの職人から仕立て屋となり、戦後の混乱期には委託の加工場へ。豊田絲業の歴史は、常に時代の荒波を生き抜くための“変化”の連続でした。 そして、彼らが生き残りをかけて選んだのが、当時誰もやりたがらなかった「ガス焼き」というニッチな加工場だったのです。

「はじめたのは約50年前、ちょうど大阪万博の頃です。ガス焼きは常に火を使うので、リスクが高い。誰もが見向きもしないその“隙間”にこそ、勝機があった。他所が嫌がるならウチがやる。その精神が、いまの『何でも焼く』というスタイルに繋がっているんです」

現在では、リワインド、ガス焼き、撚糸、そしてヒートセット(真空熱処理)。糸に関するあらゆる物理加工をワンストップで行える、世界でも稀有な工場へと進化。 かつて鉄を溶かしていた一族の末裔が、いまは炎で糸を磨き上げている。その執念が、+CLOTHETの製品にも宿っているのです。

デジタルでは再現できない、熟練した職人の超感覚

豊田絲業が世界でも特異な存在とされる理由───それは、最新鋭のデジタル管理された機械ではなく、あえて50年以上前の古い工作機械をカスタマイズし、職人の“感覚”を頼りとして自在に操っている点にあります。

「ガスの火加減は、極めて難しいんです。だから、メーターの数値だけを信じていたら必ず失敗する。だから僕らはね、音で火を“見る”んですよ」

音で火を見る───その言葉の真意を尋ねると、豊田さんはバーナーの調整バルブに手をかけながら丁寧に説明してくれました。

「ガスと空気が完全に燃焼したベストな瞬間、バーナーからピーッという笛のような高い音がするんです。長年この機械と付き合ってきた僕らには、その音がはっきりと聞こえる。数値やデータだけじゃない、その日の湿度や気温に合わせて、見た目だけでなく音でも火を調整しているんです」

それはまるで、天ぷらを揚げる一流の料理人が、パチパチと爆ぜる油の音を聞き分けて食材を引き上げるタイミングを図るかのような職人芸。 料理と糸加工の共通点が、ここでも思い起こされます。

「マニュアル化だけでは表せない繊細な感覚の部分もあり、僕も最初は違いを見極めるの は難しかったですが……親父から「糸は頭使って焼くもんや!」とよく言われました。長年やってると、工場の轟音のなかでも、その音だけがはっきり聞こえてくるようになるんです」

昨今の工場ではさまざまな工程のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、タッチパネルで制御され、誰がボタンを押しても同じものがつくれるようになっています。しかし、最高峰を極めるこの工場では、勝手が違います。

「お蕎麦屋さんが、その日の湿度で水の量を変えるでしょう?それと同じです。雨の日は空気が重いから火の入り方が違う。機械任せにせず、人間が環境に合わせて機械に寄り添う。だからこそ、他所では出せない風合いが出せるんです」

世界の常識への挑戦。「単糸」を焼くというタブー

「ガス焼き」を行う糸は、双糸であることが一般的です。なぜなら双糸よりも強度の劣る単糸を焼こうとすれば、炎の熱や張力に耐え切れず、大抵の糸が切れてしまうから。 しかし、+CLOTHETと豊田絲業は、そのタブーに挑みました。

私たちが持ち込んだのは、独特の光沢を持ち柔軟性に優れた「DCH32」という最高級超長綿を原料とする、110番という髪の毛ほどの太さしかないサイロスパン糸(双糸に匹敵する強度がある特殊な単糸)。

「『細い糸を焼いてくれ』なんて、世界中どこの工場に持ち込んだって断られますよ。あっという間に燃え尽きるか、切れるかですから。でもウチは”ガス屋”を自認してますからね。燃えるもんなら何でも焼いたる、という精神なんです(笑)」

豊田さんは笑いながら、工場の奥にある機械を指さしました。それは、ホームセンターで購入してきた部品や自作のパーツで埋め尽くされた、“魔改造”されたマシンでした。

「弱い糸なら、ゆっくり回せばいい。でもゆっくり回すと焦げるから、火を極限まで小さくすればいい。でも火を小さくすると消えてしまう……。そうやって矛盾をひとつひとつ解決するために、自分たちで機械を改造し、インバーター(回転制御装置)を取り付けて、糸が切れないギリギリのスピードと火力を編み出したんです」

こうして生まれたのが、+CLOTHETの製品に使われている、繊細かつ強靭な「ガス焼き単糸」です。

「インドから届いた最高級の原石(糸)を、日本の技術で磨き上げる。しかも、普通ならできない方法で。これができるのは、世界広しといえど、ウチだけだと思います」

その世界一の技術と飽くなき探究心を信頼するのは、アパレル業界だけに留まりません。

「最近だと、釣り糸とか、難燃繊維、導電糸 高強力繊維なんかも焼きましたね。『毛羽が起こす問題が結構存在していることに驚きましたがチャレンジしてみると意外と焼くことができました(笑)」

頼まれれば、釣り糸でも難燃絲でも焼く。その柔軟な発想と圧倒的な技術力が、「ハイブリッドコットン」という完成された衣料用綿糸を生み出す鍵となったのです。

すべての基礎は、「リワインド」にあり

しかし「ハイブリッドコットン」の真骨頂は、「ガス焼き」の前後に行う、「リワインド(巻き直し)と「撚糸(ねんし)」という工程にこそあります。

「『糸加工の基本であり、すべてはリワインド(巻き直し)で決まる』というのが、先代である親父が遺してくれた口癖です。ガス焼きした糸を、最適なボビンに、最適な状態で巻き直す。地味で地道な作業ではありますが、素材と向き合い素材の特性を観察し理解するために必要な工程です。見過ごされてしまいがちですが、ここを疎かにしては決して最高の糸はできないんです」

工場の一角で、豊田さんは機械の下に溜まったある物体を指さしてこう言いました。

「これを見てください。これが『ガス粉(がすこ)』と呼ばれるものです」

指差された先には、一見すると砂埃のような、細かくザラザラとした粉末が溜まっていました。

「ガス焼きをすると、毛羽が燃えてなくなるわけですが、実は消えてなくなるわけじゃない。炭化した微細な燃えカスが出るんです。毛布工場のふわふわした綿埃とは違って、これは砂のように硬くて細かい」

この「ガス粉」こそが、厄介な存在なのです。もし、この粉が付着したままニッター(編み立て工場)へ納品されてしまうと、どうなるか。

「ずっと編んでいると、編み機の針の溝にこの粉が蓄積していくんです。そうすると針が折れたり、生地に『針傷』という傷がついたりする。もっと怖いのは、ハイゲージ(網目の細かい生地)の場合。高速で動く針とこの砂のような粉が擦れ合って摩擦熱を持ち、最悪の場合、発火することさえあると言われています」

美しい生地を作るためのガス焼きが、一歩間違えれば火災の原因にもなり得る。だからこそ、「リワインド」という工程が重要となるのです。

「うちではリワインドの際に、糸に特殊なフェルトを当てています。高速で走る糸をフェルトで挟み込み、表面に残ったガス粉を徹底的に拭き取るんです」

一瞬で通り過ぎる糸の表面から、目に見えないミクロの燃えカスを物理的にぬぐい取る。同時に、滑りを良くするためのワックスを均一に塗布し、糸のクセ(テンションのムラ)に合わせて巻き直す。 一見地味なこの「ぬぐい取り」と「巻き直し」こそが、最終的な製品の圧倒的な品質差となって現れます。

「ニッターさんが言うんですよ。『豊田さんのところの糸だと、編み機の調子が良い』と。それは、僕らが焼く前の下準備と、焼いた後のこの徹底した『拭き掃除』をしているからなんです」

「微強撚(びきょうねん)」という絶妙な塩梅

「撚糸」とは、糸を捻り、合わせることによって異なる性質の糸(1本なら単糸、2本なら双糸、3本なら三子撚りと呼ぶ)をつくる作業のこと。通常、夏物のTシャツなどでシャリ感(清涼感)を出したい場合は、糸を強くひねる「強撚(きょうねん)」という手法が取られます。

「でも『ハイブリッドコットン』は、いわゆる強撚じゃない。“微強撚”なんですよ」

聞き慣れない言葉に私たちが首を傾げていると、豊田さんはにこやかに解説してくれました。

「要するに、普通の強撚ほど強くは撚らない。でも、甘撚りでもない。その絶妙な中間地点を狙っているんです。これは、ニッター(編み立て工場)さんの先任担当者のこだわりが生んだ、特注スペックなんです」

一般的に、撚りを強くすればするほど糸は硬くなり、生地にしたときに斜めに歪む「斜行(しゃこう)」という現象が起きやすくなります。逆に撚りが甘ければ毛羽が立ちやすく、求めるハリやコシが出せません。

「強撚ほどカリッとさせたくないけど、普通の綿よりもしっかりしたコシがほしい───そんな無理難題のようなオーダーに応えるために、回転数やテンションの微調整を繰り返し生み出されたのが、この微強撚糸なんです」

シャリシャリしすぎず、かといって柔らかすぎない。ジャケットのなかに着てもダレず、肌触りは滑らか。そんな相反する要素を見事に両立してみせた秘密は、最高の“一石二鳥”を目指す職人ならではのバランス感覚にありました。

「撚り数の設定も、肝になる部分なんです。微強撚で出来あがった生地をみると、やっぱりこれじゃないとダメなんだ、と納得させられちゃうんですよね」

日本の技術が支える、ロングセラーの理由

「『ハイブリッドコットン』を使ったTシャツは、自分でも購入して着用させていただいています。これ以上の加工はないと思いますね。手間も技術もクオリティも、最高レベルだと断言できます。自分の工場で加工した糸を使った完成品を買うっていうのも変な話ですけど……。やっぱり良いものは良いですから」

取材の終盤、豊田さんが漏らした言葉は、とても印象的で共感できるものでした。 「ハイブリッドコットンTシャツ」に袖を通したときの、「しっかりしているのに、しなやか」な着心地の正体。そして2018年の発売以来の超ロングセラーであり続ける理由───それは、インド産の最高級超長綿という素材の力もさることながら、絶妙な「微強撚」で仕上げ、日本が世界に誇る職人が施行の「ガス焼き」で磨き上げた、唯一無二の技術にこそあるのです。


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