これまでにない画期的なTシャツを

これまでにない画期的なTシャツを


デビュー当時、わずか1型だったTシャツが、ブランドのアイコンにまで成長。その背景には、上質な生地の素晴らしさを伝えるために、細部まで徹底してこだわる繊維専門商社の矜持がありました。ここでは+CLOTHETがシンプルなTシャツに託した想いをひも解きます。



2018年春に誕生した、+CLOTHETの飛躍のきっかけとなったのは、一枚のTシャツでした。「テーラードTシャツ」と名付けられたそれは、その後、一度に複数枚購入するリピーターが続出し、瞬く間にベストセラーに。予想を大きく上回る反響に、一時は生産が追いつかないほどでした。


Tシャツといえば、大量生産の象徴ともいえるアイテムのため、生産が追いつかない、というのはちょっと不思議な気もしますが、それは+CLOTHETの成り立ちにも関係しています。


+CLOTHETの経営母体は約150年、生地の企画から製造、販売に携わってきた繊維専門商社。海外のハイエンドブランドからも高く評価され、生地のクオリティには絶対的な自信をもっています。


現在は原料の調達から紡績、生地の開発、染色、整理加工、そして縫製、加工プレスといった製造まで、約3,400社に及ぶ国内外のサプライチェーンを組織化し、すべての工程を一貫で行える体制を整えていますが、根底にあるのはやはり生地ありきの発想です。




素晴らしい生地を埋もれさせないために

母体の繊維専門商社は、世界中に張り巡らされたネットワークから素晴らしいと思える原料を見つけ出し、上質な糸や生地をつくるテキスタイルビジネスを主力事業にしています。しかし、どんなに自分たちがいいと思ったものだとしても、相手先主導の取引では、さまざまな条件が折り合わなければ日の目を見ることはありません。


その理由のひとつが、コストの問題です。ただ、埋もれたままの生地のなかには、どうしても残しておきたいものが存在します。だからこそ、+CLOTHETでは原価率が高くなっても、自社ブランドとして発信することで、自分たちが認めた生地を直接消費者に届け、その価値を知ってもらうことを第一に考えました。


とはいえ、OEM(受注者先ブランド名製造)の経験は豊富なものの、自社ブランドの開発は初の試み。生地開発ではどこよりも先を行く自負がありましたが、それだけでは差異化が難しく、数多ある既存ブランドに埋没してしまう恐れがあります。そこで社内でディスカッションを重ねた末、たどり着いたのがテーラーのパターンメイキングの技法を取り入れるアイデアでした。


しかも、それをドレスクロージングだけではなく、カジュアルアイテムにも応用するというのです。出発点となったのは、感度の高いシャツメーカーなどに見られる、袖が前に向かってカーブさせる「前振り袖」がTシャツではなぜないのか、という素朴な疑問でした。これが、画期的なTシャツ誕生に向けた挑戦の始まりとなります。


きれいにたためないTシャツ

+CLOTHETのジャケットテーラーとして、パターン、デザインを監修する吉田泰輔氏は、その相談を受けたときのことをこう話します。


「Tシャツをテーラー仕立てにすることに、何の意味があるのかと感じました。ただ、よく考えてみると、自分がTシャツを着たときに感じていた不満を、立体的に仕立てることで解消できるかもしれない、と思ったのも事実です。補整の発想自体はテーラーにとっては当たり前ですが、Tシャツまで手がけるテーラーは皆無。そのため、これまで市場にはなかったのでしょう。実際に着てみて、その着心地の良さに驚きました」


吉田氏の不満とは、着用時にタスキじわ(※1)などが出ることでした。それもそのはず、メンズのTシャツは、完全にフラットな状態で縫製するのが従来の常識。ところが+CLOTHETのTシャツは、後身頃の肩線のイセ込み(※2)を多くした前肩縫製で、袖付けは身頃と袖の縫い目をズラして運動量を確保しているため、自然と美しいシルエットになるのです。


※1)首の付け根から肩甲冑、脇の下に向かって斜め八の字に出るしわ。前の肩先線(ショルダーポイント)の位置が低いことや、アームホールが小さ過ぎる、前後のバランスが合っていない、襟ぐり全体が小さいといったことが原因となる。

※2)平面的な布に丸みをつけて立体的にする方法のひとつ。細かくぐし縫い、または粗めにミシン縫いをして糸を引き、ギャザーがよらないように縮め、スチームアイロンなどで立体的にかたちづくる。





ウィメンズの場合、女性らしい丸みのあるボディに合わせてダーツやタックなどの手法を用いますが、+CLOTHETのTシャツがもつ独特な立体構造は、オートクチュールを縫製するのと同等の技術やテクニックを必要とします。


それゆえ、秋田に縫製工場を構えるランティエの安藤仁貴社長は、最初に話を聞いたとき、ハードルが高過ぎて量産の実現は不可能だと思ったと言います。




「カットソーの縫製では、生地の違いによってその難易度が大きく異なります。伸縮性や柔軟性が高い生地であればあるほど縫製は難しく、それらの特性を損なわない細番手の糸の選定や張力設定、ミシンの加圧調整が必要になります。しかも、+CLOTHETのTシャツは立体的な仕様ということもあり、工程数、時間ともにかかる手間は通常の数倍以上。職人一人ひとりに要求される技術が、非常にハイレベルなのです」


そのほかにも襟付けや脇スリット、クロスカンヌキ、ブランドネーム付けなどのディテールにもこだわりを凝縮し、着心地はもちろん、長く着用したときの耐久性に至るまで一切の妥協がありません。Tシャツといえども大量生産できないのは、入手困難な希少な原料を使う一方で、こうした縫製の難しさも原因だったのです。


生地の特性を最大限に引き出すつくり

+CLOTHETが初めてのTシャツに採用した素材は、1965年創業のインド最大の紡績会社のひとつであるバルドマングループで紡績されたハイブリッドコットン「DCH32」を使ったハイゲージ天竺でした。独特の光沢があり、柔軟性に優れた細番手の糸を、日本国内で加工して上質な素材感に仕上げたこれは、世に出れば受け入れられる自信はあったものの、量産されることなく、しばらく倉庫に眠っていた生地です。それが発売してみると、生地のクオリティとともに、立体的なつくりが評判を呼び、じわじわと売り上げを伸ばしていきます。


ビジネススタイルの多様化も、追い風になったのでしょう。ジャケットの中に着ても脇の下がもたつかず、腕を上げたときも身頃が引っ張られない、これまでにないTシャツでした。


2019年春には、綿花の長さが35㎜以上のなかでも特に繊維長が長く、その希少性でも世界トップクラスと称される「スビンプラチナム」を使ったコレクションを追加。これが空前のヒットを記録します。


バルドマンのハイブリッド天竺は、張りのある硬めの質感で、透けにくい厚みがある生地が特徴でしたが、こちらは繊細でとろけるような柔らかなタッチが持ち味。しかし、ランティエの安藤社長が言うように、生地が違えば縫製の仕様は異なります。


パッと見ではわかりませんが、サイズを変えずに別の生地で同じものをつくろうとすると、縫製糸やミシンの調整だけでなく、生地の柔軟性や伸縮性に合わせてイセ込みの量を含めたパターン修整も不可欠です。そのため、+CLOTHETではTシャツであっても最初のサンプル(試作品)の完成から販売に踏み切るまで、長期のテスト期間を設けています。


着用後、洗濯を繰り返してはその状態を確認し、納得できなければ何度でもやり直し。サンプルづくりは最低でも3回行い、部署を超えて連携する社内グループのフィードバックも商品開発のヒントにしています。




シーズンごとに新しい生地を投入しているTシャツのコレクションは、現在、バルドマンスビンプラチナム、そして1965年に伊ビエラで創業した老舗レダ社のハイパフォーマンスライン「レダ アクティブ」の3本柱で展開。レダ アクティブはニュージーランドメリノウール100%の原毛、糸、生地などの各生産工程で特殊加工を施し、上品な光沢とソフトな風合いを保ちながらウォッシャブル性も兼ね備えているのが特徴です。


+CLOTHETが目指すのは、普遍的な美しさを兼ね備えたスタイル。時代性は大切しながらも、いたずらにトレンドを追従することはしません。それは大切な洋服を、長くきてほしいから。そうした哲学が、一枚のTシャツにもしっかりと息づいているのです。



Photos: Tohru Yuasa