テーラー・五十嵐徹に学ぶ、トラウザーを美しくはきこなすためのアイロン術

テーラー・五十嵐徹に学ぶ、トラウザーを美しくはきこなすためのアイロン術

知っているようで知らないトラウザーのアイロン作法。今回は、パンツテーラーという職業柄、何万本というパンツと向き合ってきた五十嵐徹氏のアトリエを訪れ、自宅で簡単にできるアイロン術を学んできました。大切なパンツを美しく愛用するために、日々のアイロンがけは欠かせません。初心者から上級者まで役立つ内容ですので、ぜひご一読ください。

Photography:Yosuke Ejima
Interview:+CLOTHET
Edit:K-suke Matsuda(RECKLESS)



Trousers Tailor
五十嵐 徹 Toru Igarashi

- Profile -
1987年生まれ。大学在学中にテーラリングの修行をスタート。2013年に独立し、トラウザー専門のビスポークハウス「五十嵐トラウザーズ」を立ち上げる。「日本人が似合う、はきやすくてかっこいいトラウザーズ」というコンセプトのもと、人体の構造から勉強し、骨格、筋肉の付き方、普段の生活のくせなどを考慮したオリジナルの型紙によるパンツ作りが好評。
現在では、オーダーメイドのパンツ分野で世界一規模のオーダー数を誇るブランドに成長し、東京都・赤坂と山梨県・甲府の二拠点にアトリエを構える。
IGARASHI TROUSERS (https://igarashitrousers.jp


トラウザーは、アイロンがけ前提で設計されている。

デニムパンツなどのカジュアルパンツは、もともとアイロンをかけなくてもいいように作られているのですが、ウールやコットンのトラウザーに関しては、基本的にアイロンをかけることを前提の数値で設計されています。

ウールは雨や湿気を含むことで、生地が縫製前の元段階に戻ろうとしますし、コットンはシワになったり縮んでしまうことがあります。つまり、トラウザーははいていくうちにもともとの設計からずれて見た目が悪くなっていくということです。アイロンがけとは、単純に言えばそのずれを元に戻すという作業なんですね。

ですので、もちろんはく方のスタイルにもよるのですが、一般的には一度はいたらアイロンをかけた方が美しい形をキープすることができます。シワだらけのトラウザーをはいていると印象も良くないですからね。

用意するのはアイロンとアイロン台、あとは霧吹きと当て布があると良いです。最近では便利なスチームアイロンも増えていますが、アイロンの温度を高くして蒸気を当てている方や、そのままかけてしまっている方も多いと思います。

ところが、基本的に高温でかけるというのはNGなんです。よくスーツの組下のパンツだけ生地がテカテカしてしまっている方がいますが、あれは熱で生地が溶けているんです。われわれのようなプロがアイロンをかける時には、温度を手で触れられるくらいの熱さに設定して蒸気で当てています。

生地に必要なのは水分なので、水分を蒸発させる時の蒸気で生地を元の状態に戻してあげるというのがセオリーです。寝癖の髪の毛をセットする時に水で濡らしますが、湿気を含ませるとセットしやすくなりますよね。その後に、整えてからドライヤーで熱風を当てて、冷たい風で冷やして固めるわけですが、そのイメージに近いかもしれません。

アイロンの場合、家庭用の設備ですと最後の冷やすという工程ができないので、霧吹きで水を与えてあげて、アイロンの熱(120130°までの中温)で蒸気に変えながら生地を整えます。最後に当て布で上から押してあげると熱が取れて固まります。これが一番綺麗にできるアイロンの方法ですね。

 

五十嵐流のビギナー向けアイロン術。

①ひざから裾までかける

まずはトラウザーの前身頃をかけていくのですが、前部分の線の位置をどこにすればいいか分からないと思うんです。やり方としては、インシーム(内側の縫い目ライン)とアウトシーム(外側の縫い目ライン)を合わせます。

基本的な型紙はひざから下が前と後ろで同じ線に設計されているので、前身頃と後身頃の幅が同じになるはずです。トラウザーのひざ辺りのシームを指でつつくと、合っているか確認しやすいかもしれません。

インシームとアウトシームを揃えたら、ひざの辺りをシームから前に向かってアイロンをかけます。次に裾をかけたら、裾上からひざに向かってまっすぐかけていきます。これで前身頃が綺麗になったので、同じように後身頃にもかけていきます。

②ひざからヒップの辺りまでかける

ひざから下までは前と後ろの分量が同じなのですが、そこから上の部分に関しては前と後ろで分量をずらして設計されています。また、インプリーツのトラウザーであればプリーツを開いてそのまままっすぐかけられるのですが、+CLOTHETのパンツのようにアウトプリーツのものには少しコツが要ります。

まずはタックをつまんで開き、上の部分を引っ張って綺麗なラインを作りながらアイロンをヒップのライン辺りまでかけていきます。

あまりに上までかけ過ぎると二重線のシワができてしまうので注意してください。後ろも同様にかけていきます。

③腰まわり、プリーツ部分をかける

家庭で一番苦戦するのが腰まわりです。アイロン台の三角の部分をどううまく使うかが鍵になるのですが、腰まわりは一度はいたらどうしてもシワになってしまいますし、われわれがお客様に教える時にも、無理にかけることを推奨していません、ビギナーの方は①と②を綺麗にしてあげることに注力した方が良いかもしれません。

アイロンをかけたい場合は、アウトシームの上の方をつまんでアイロン台の三角部分に乗せます。その際にポケットの袋地が干渉することがあるので、かける部分によっては袋地を上にあげるようにしてください。大切なのは、アイロンをかける部分をいかに平にするかということですね。ただ、その時にせっかく綺麗にしたほかの部分がシワにならないように気をつけてください。

本来ははいてもらっている状態でアイロンをかけるのが、一番良いのですがさすがにヤケドしてしまいますからね(笑)。アイロン台をうまく使って、はいているような状態を作ってあげると綺麗に仕上げることができます。

アイロンをかけたトラウザーの保管方法。

我々はT字ハンガーに掛けて保管することをおすすめしています。できれば、滑り止めが付いているようなものを選ぶと便利ですね。いわゆる正統な掛け方もあるのですが、このようにシワにならないように二つ折りにしてハンギングする方が簡単です。

別の方法としてはクリップ式のハンガーで裾を留めて吊すというやり方もあります。吊す時に霧吹きをかけておけば、はきジワが伸びて綺麗な状態で保管することができます。この方法も良いのですが、クローゼットが広くないと収納できないので、日本の住宅事情を考えると二つ折りの方が良いかもしれませんね。

せっかくアイロンをかけて綺麗にしたトラウザーですので、保管にもこだわるとより美しい状態ではいていただくことができます。みなさんもぜひ、今回ご紹介したアイロン方法や保管方法を参考に大切なトラウザーとつき合ってみてください。