コットンの概念を覆す、豊かな弾力となめらかさ ─── +CLOTHETが実力派工場と辿り着いた、“究極の強撚”の正体
繊維商社としての強みを活かし、素材、品質、着心地の良さにこだわり、数々の普遍的な定番アイテムを生み出している+CLOTHET。完成の域まで突き詰めたかに思える製品であっても、常にさらなる進化を目指して改良を続けようとするものづくりの姿勢は、創設以来決して変わることのないブランドの理念そのものです。
そんな+CLOTHETが4月に発売した新製品があります。その名も「ハイツイストコットンカルゼイージートラウザー」。ブランドのボトムスコレクションにおいて高い人気を集める「イージートラウザー」に、革新的な機能素材「ハイツイストコットンカルゼ」を採用した意欲作です。
「ハイツイストコットンカルゼ」は、製造難易度が高い太番手の強撚コットン糸を使用し、しっかりとした肉感がありつつサラッとドライなタッチが味わえる新素材。その開発における最大のミッションは、強撚コットンのポテンシャルを最大限に引き出し、コットン100%ならではのナチュラル感と合繊のような洗練された佇まい、接触涼感性を兼ね備えることでした。
これまでのコットンの常識を華麗に裏切るこの“魔法”のようなテキスタイルは、いかにして生み出されたのか───私たちは、この新製品の染色・仕上げ加工を担う「クラボウ徳島工場」へと向かいました。
妥協なきバトンリレー ───原綿から織り、そして国内最大級の染色加工工場へ
いざ、工場へ。と、その前に、まずは今回フィーチャーする新素材「ハイツイスト コットンカルゼ」が、国内最大規模かつ最先端の染色・加工技術をもつ「クラボウ徳島工場」に辿り着くまでに、どのような工程を経てきたかについて触れておきたいと思います。
ベースとなる原綿は、その紡績工程において綿の毛羽を糸の内側に極限まで撚りこむ「コンパクトスピニング」を採用し、単糸の段階ですでに非常に毛羽の少ない、滑らかな糸となっているのが特長です。さらに、その単糸を2本撚り合わせた双糸にする際、通常のコーマ糸(不要な短繊維や不純物を取り除き、繊維の平行度を高めた高級綿糸)よりもさらに多くの撚りを加える「強撚」という操作を行っています。
こうしてできあがった強撚糸を経糸・緯糸に用いて織り上げるのですが、強撚糸は非常に反発力が強く、「整径(設計通りの本数、長さ、密度などに揃え、均一な張力で巻き取る準備工程)」や「糊付け(摩擦による毛羽立ち、切断を防ぐために糊を付ける工程)」といった準備段階から非常に気を遣って行わなければ、すぐに“タテ筋(糸形状の不良)”が出てしまいます。しかし「ハイツイスト コットンカルゼ」の無加工の生機(きばた)は、国内の熟練した織物工場によって精魂込めて織り上げられ、独特のハリとシャリ感が際立つ強撚糸特有の上質なドレープ感が味わえる織物となって、染色・加工工場へと納入されるのです。
そんな重みのある“バトン”を受け取るのが、「クラボウ徳島工場」です。この日の案内役を務めてくれた加工技術課長の山形啓佑さんは、まず工場の歴史について教えてくれました。
「この工場は、1948年に大阪・枚方で立ち上がりました。しかし市街地と隣接していたこともあり、1996年にこの徳島へと移転し、操業を開始。今年でちょうど30周年を迎えます。国内にある染色・加工場としては、最大級かつ最先端であると自負しています」
圧倒的な環境への配慮と、効率化を極めた自動化システム
そんな巨大な敷地と設備を備える「クラボウ徳島工場」ですが、そのものづくりは地球環境を見据えた極めて先進的なものでした。
染色工場は水や蒸気を大量に使用するため、ボイラーの燃料は重油から環境負荷の低いLNGへと転換。さらに2024年には、工場屋根に太陽光発電パネルを設置。25年度実績では、年間791MWh発電し、工場使用電力の約10%を賄うとともに、CO₂排出量を年間362トン削減しています。
※CO₂削減量は四国電力の排出係数を元に算出
「事業所から出る廃棄物を極力ゼロにする、『ゼロエミッション活動』にも積極的に取り組んでいます。1番多く出る繊維くずはフェルトの原料とし、排水処理設備から出る汚泥や塵芥などは、場内の焼却炉で焼却。その焼却灰をセメントの原料にしているんです。金属缶なども再利用に回しており、2024年度の再利用率は、実に99.4%に達しています」
広大な工場内の西側には倉庫があり、そこから東側、北側へと作業工程の順序通りに機械を配置。そのため、動線にムダがなくスムーズで、非常に効率よく操業できるのだとか。「オンライン測色」という機械化された色ブレの監視、RPA(ソフトウェアロボット技術)を導入した集計作業の自動化など、データをモニターで全員に見える化することにより作業効率と精度の向上、職員の意識を高め、非常に先進的かつ高水準、そして環境性能の高い生産環境を誇っているのです。
コットンの“常識”を裏切る新感覚の素材特性と、シルケット加工の魔法
では実際に、「クラボウ徳島工場」で「ハイツイスト コットンカルゼ」の生機がどのように染色・加工されているのかを見ていきましょう。
この素材の最大の特長は、生産難易度が高い太番手のコットン強撚糸を使用している点にあります。強撚糸が持つ独特のシャリ感に加え、生地としての豊かな膨らみや美しいドレープ感を併せ持っているのが、この「ハイツイスト コットンカルゼ」という新素材の真骨頂です。
「まず最初に行うのが『毛焼き』という工程です。今回の生地は強撚糸のため元々毛羽が少ないのですが、さらに毛羽をバーナーで焼くことでスッキリとしたキレイな表情にし、質感を高めています」
これに続くのが、「糊抜き」と「精錬」という工程です。「糊抜き」とは、「糊付け」された状態の生機に含まれるでんぷん糊を酵素で分解し、コンベアで運びながら蒸し上げ、お湯で洗い流す工程のこと。アルカリ溶液を使用して不純物を徹底的に落とす「精錬」工程では、薬剤をつけては蒸し、そして洗い流すという工程を何度も繰り返します。さらに「漂白」工程では過酸化水素を使用して濃度にバラつきが出ないよう、緻密な自動測定を行いながら漂白されていきます
この「漂白」が終わると、いよいよ次は「シルケット」加工です。
「通常の『シルケット』加工では生地に適度なテンションをかけながらアルカリ処理を施し、寸法安定性や光沢、染色性を劇的に向上させます。しかし『ハイツイスト コットンカルゼ』には、より柔らかく、上品な光沢に仕上がる液体アンモニアも使用しているんです」
苛性ソーダは繊維をやや硬くしシャリ感を出しやすくするのに対し、液体アンモニアはより分子が小さいため、繊維の内部まで瞬時に浸透。ねじれを根本から取り除いてリラックスさせる効果があります。結果として、生地本来の柔らかさや弾力性を損ねることなく、これまでのコットンの常識ではありえない表情とタッチを生み出しているのです。また、仕上げにはクラボウ独自の「リンクルマジック」加工を施しており、着用時や洗濯後のイージーケア性も兼ね備えています。
手間暇を惜しまぬ「CPB」染色と、「リンクルマジック」仕上げ
こうして「下晒」が完了し下地が整った生地が、「染色」工程へと進みます。そしてこの「染色」と仕上げの加工こそが「クラボウ徳島工場」の真骨頂であり、「ハイツイストコットンカルゼ イージートラウザー」の完成度を支える“背骨”となっています。
「生地を一定の条件下で流れ作業の様に次々と染上げる手法が、『連続染色』です。それに対し、染料に浸したあと適温で生地を寝かせ、時間をかけて浸透・反応させることで繊維の内部までしっかり染め上げるのが、『CPB(コールドパッドバッチ)』という手法になります」
「『連続染色』は生産性が高く、何メーターでも連続して加工できる我々が最も得意とする手法なのですが、絞りを均一にしないと色差が出やすいという難しさもあります。この工場では、中厚地の生地でも高度な『下晒』技術によってしっかり下地を整え、美しい『連続染色』を実現できる。しかし、さらに手間も時間もかかる『CPB(コールドパッドバッチ)』を採用することで、色ムラを極限まで抑え、より深く染め上げることが可能なんです」
綿素材のデメリットとして“シワの入りやすさ”がよく挙げられますが、ただでさえ反発力のある強撚コットンを織り上げ、液体アルカリによる「シルケット」加工まで施した「ハイツイストコットンカルゼ」は、この時点ですでに上質な光沢やドライなタッチ、イージーケア性を獲得。「CPB」による安定した発色も手にしているように思えます。しかし「究極の強撚コットン」を目指す+CLOTHETの追求は、とどまることを知りません。最終仕上げとして「クラボウ徳島工場」が誇る独自の加工を施すことで、ようやく“完成”するのです。
「繊維同士が水素結合によって結びついている綿は、たとえ強撚コットンであっても濡れればその結合が外れ、ヨレた状態で乾くとそのシワが固定されてしまいます。その作用を抑制するために最終仕上げとして行っているのが、我が社が誇る『リンクルマジック』という加工なんです」
シリコンオイルをベースとする薬剤を生地ひとつひとつにオーダーメイドで処方し、塗布することで、シワの原因となる圧力に反発するバネのような力を持たせるという、この「リンクルマジック」。着用中に付いたシワを随時回復してくれるのはもちろん、洗濯後のシワも定着しづらいので、アイロンの手間も電力も削減できるという強力なメリットがあります。また、その効果は洗濯を数十回繰り返しても持続してくれるというのだから驚き。そしてなにより、これほどの高機能ながらも生地は柔らかく、ソフトな手触りはそのままだというのです。
「究極の一着」を保証する品質管理と、独自の調液システム
工場の上階は、品質管理や製品検査などを行う“心臓部”です。ピリング(毛玉)試験や、生地を擦って強度を調べるマーチンデール摩擦試験などもこのエリアで行われていました。また、家庭用のドラム式や縦型洗濯機、工業用洗濯などさまざまな洗い方で実際に洗濯し、どれくらい縮むかを確認して、仕上げに行う防縮加工の条件を決めているといいます。
さらにその奥には、これまでに見たことのない染料の自動調液システムとミニラボが広がっていました。
「この自動調液システムによって、仕上げ剤や染料を自動で計量・調合します。現場で加工する前にミニラボで試験を行い、薬剤の比率や機械の条件を決めているんです。薬剤をどのように組み合わせ、現場の巨大な機械の温度やスピード、圧力をどう設定するかが極めて重要なんです」
また、顧客によって指定の光源が異なるため、光源を指定して色を確認できる機械も完備。独自の測色システム「CCM(コンピューターカラーマッチング)」は、基準の色を読み込ませるだけで使うべき染料を判断し、事前に登録された膨大な染料データアーカイブから瞬時に必要な比率を自動で算出してくれるのだとか。レシピの管理方法としては、LED案内システムを導入しており、検索すると該当のレシピが光り、場所が瞬時にわかる仕組みで運用しています。
長年培われた現場の職人たちの知見と、最新のデジタルシステム。その両輪が完璧に噛み合って初めて、+CLOTHETが求める高いハードルを越え、「ハイツイストコットンカルゼ」のような高度な新素材が開発できるのでしょう。
五十嵐 徹氏によるミリ単位の美学が描く、究極のシルエット
こうして完成した「ハイツイストコットンカルゼ」は、縫製工場へと送られ、晴れて「ハイツイストコットンカルゼ イージートラウザー」という最終製品へと昇華します。
この上質な素材の特性を存分に発揮してくれるのが、約1年前にトラウザーテーラー・五十嵐 徹氏の監修により、ミリ単位の設計変更が行われた新型「 イージートラウザー」なのです。
特筆すべきは、股周りの構造です。脚の動きを邪魔しないよう、あえて前後の生地の長さを完全に揃えるという緻密な調整を実施。これにより、歩行時のスムーズな足運びはそのままに、従来のパンツにありがちだった股下の「生地のダブつき」や、「たるみ」を解消しています。立ち姿がよりスマートに見える、洗練された美しいシルエットを実現しているのです。
穿き心地はもちろん、実用性も秀逸です。ウエストのコードは、外に出せばカジュアルに、内側に収納してベルトを通せばドレッシーな装いに変化させることができます。さらにウエストゴムを両サイドのみに配置したことで、ベルトを通すと一見してイージー仕様とは分からないほどスマートな仕上がりに。後ポケットには3mm幅の繊細な細玉縁、左ポケットにはブランドの象徴である「+マーク」を同色であしらうなど、細部に至るまで徹底的な”ドレスアップ”が図られています。
毎日履きたくなる心地よさの裏側には、原綿を紡ぐ者、緻密に織り上げる者、そして、この「クラボウ徳島工場」で幾重もの魔法をかける者たちの、途方もない情熱と技術によるバトンリレーが存在していました。コットンのしなやかさに、合繊のような機能性を付与された強撚コットン生地「ハイツイスト コットンカルゼ」。この究極ともいえる新素材の肌触りの良さや実用性の高さは、実際に見て、触れて、着用してみなければ決して分かりません。この春、ぜひ「ハイツイストコットンカルゼ イージートラウザー」を通して、この“魔法”をご体験ください。
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