リネンが宿す、ウールの“優しさ”と合繊の“機能性”───クロスオーバーなものづくりが、夏の着こなしを美しく快適にする
近年、にわかに注目を集めている素材、それがリネン(麻)です。リネンはコットンやウールと並ぶ天然素材の代表格であり、通気性と吸湿速乾性に優れる夏の定番素材。汗ばむ季節でもサラッとした肌触りを味わえる自然由来の“機能素材”として、古来より親しまれてきました。
快適性に直結するその高い機能性だけでなく、独特なシャリ感やシワが生み出す表情、使い込むほどに柔らかく身体になじむという点も、リネンならではの魅力でしょう。そんな“味”やこなれ感につながる特性が、王道のワンランク上を求める時代のニーズに合致。人気を高めている大きな要因となっているようです。
しかしクリーンでモダンな表情を好む方にとって「シワ」はデメリットともなり、また洗濯のたびに「縮みやすい」という繊細な素材でもある点も見過ごせません。未加工では「肌触りが堅くチクチクしやすい」、「縫製が難しく型崩れしやすい」ということもあり、実はリネンはTシャツなどのカットソー分野において、長年敬遠されてきた素材でもあるのです。
しかし2025年春、「硬さ」「縮み」「型崩れ」というリネンの“三重苦”を克服する素材として登場したのが、+CLOTHETの「リネンジャージー」。上質なリネンがもつナチュラルさ、天然の“機能素材”としての快適性を維持したまま、現代生活にフィットする実用性と洗練された佇まいを獲得した この新素材を使用した「テーラード リブド ヘムTシャツ」や「スキッパーシャツ」は、リネン素材のカットソーとして異例の大ヒットを記録しています。
その背景にあるのは、愛知県一宮市の染色加工メーカーであるソトーが長年研究を重ね、積み上げてきた、多様な素材における加工ノウハウの融合。すなわち、異なる素材の知見をクロスオーバーさせた、“足し算”の技術だったのです。
「専業ではない」からこそ、リネンの常識を疑える
愛知県は、尾張一宮。旧くから繊維の街として知られるこの地に、「リネンジャージー」の加工を手掛けるソトーの巨大工場がありました。私たちを案内してくれた開発担当の大平和男さんは、開口一番、意外な事実を教えてくれました。
「ウチ(ソトー日化工場)は、もともとウールや合繊(ポリエステル等)の加工を得意とする工場で、いわゆるリネン専業の工場ではありません。しかし、だからこそ、リネンに対し他社とは異なるアプローチができたのだと思います」
これまでのリネン製品では、水洗いによる縮みを抑え、艶を与えてくれる「シルケット」という加工が広く採用されてきました。しかし「シルケット」加工は、扱いやすく艷やかにしてくれる代わりに、リネン本来の質感を奪ってしまう両刃の剣でもあります。そしてこの「シルケット」から離れることこそが、「リネンジャージー」の画期的かつ挑戦的な最重要ポイントでした。
彼らはウールの加工で培った「繊維を優しく扱う」技術と、合繊加工で磨いた「緻密な機能性の追求」という技術を、リネンという異素材の加工において融合することにしたのです。
「ウールはとてもデリケートで、合繊はとても化学的。その両者の知見を、リネンに応用している。異なる素材の技術を組み合わせることで、これまでの加工では得られなかった品質のリネンを生み出しているというわけです」
リネンというトラディショナルな天然素材を、ウールのように慈しみ、合繊のようにコントロールする───この「クロスオーバー」な発想こそが、家庭での水洗いが可能でチクチクせず、リネン本来のナチュラルさを備えた、先進的カットソーの原点となっているのです。
シワを許さない「絶対的スピード」へのこだわり
工場内で低い唸りを上げていたのは、染工(染色加工)においては極めて一般的な長い筒状の「液流染色機」。しかしその運用方法は、まったく普通ではありませんでした。モニターに表示される液流、つまり生地の回転速度が、通常のリネン加工では考えられないほど速いのです。 工場長の奥村直規さんは、高速で循環する染色機を指差し、その理由を語ります。
「リネンは水に濡れると繊維が膨張し、シワになりやすい性質をもっています。一度ついてしまった強いシワは、その後の工程でも取ることができません。だから、液流スピードを上げて生地を止まらせないことが重要なんです」
強い水流に乗せて生地を高速で循環させることで、シワが定着する隙を与えずに染め上げる。シワを防ぐために強力な薬剤に頼るのではなく、物理的な「速度」で解決する。これは、デリケートなウールなどを扱ってきた同社ならではの、生地への負荷を見極めたギリギリの調整といえそうです。
「もちろん、単純にスピードを上げればいいというわけではありません。速すぎれば生地が傷むし、遅ければシワになる。その限界点を見極めながら、シワを“こなして”いく。このバランス感覚は、長年の経験がないと決して掴めないものなんです」
80メートルの巨大設備「多段式テンター」と秘伝のレシピ
染め上がった生地は、乾燥工程へ。ここでも、ソトー独自の設備投資が生きています。 通常の工場では、平面的な乾燥機(フラットテンター)を使用するのが一般的。しかし、この工場には高さのある巨大な「多段式テンター」が鎮座しています。
「この機械は、なかで生地が何往復もする構造になっています。全長が長く、じっくりと熱を当てられるため、生地に無理な負荷をかけずに乾燥させることができるのです。上から入って、なかで4往復して下から出てくる。レールの長さだけで約80メートルあります」
この巨大な乾燥機のなかで行われているのは、単なる乾燥ではありません。リネンの弱点である「縮み」を抑制する特殊な薬剤を定着させる、化学的な工程も同時に進行しているのです。奥村さんは、工場の片隅にある薬剤タンクの前で、その苦労を滲ませつつ語ってくれました。
「この乾燥機は、生地に薬剤を含ませてから乾かすことができるラインです。『リネンジャージー』は縮み防止のため、生地に防縮剤を含ませる必要がある。ただ、デリケートなリネンの防縮加工ともなると、とても複雑かつ絶妙なバランスで調合した薬剤を使用する必要があるんです。ただ固めるだけではなく、風合いを損なうことなく縮みを止める───そのための最適な薬剤の配合、この“レシピ”こそが、私たちの命ともいえます」
多段式テンターでは、針(ピン)によって生地の両端を刺し、幅を一定に保ちながら乾燥させます。これにより繊維の奥まで薬剤を行き渡らせ、強固な寸法安定性を実現。生産効率よりも「生地へのいたわり」と「精緻な機能性」を優先した設備選び、試行錯誤の末に編み出した独自の“レシピ”などが、才色兼備の「リネンジャージー」を生み出しているのです。
縫製現場に配慮した、丁寧な「ガミング」加工
乾燥を終えた生地は、次なる工程「ガミング(耳糊付け)」へと運ばれます。これは、「耳」と呼ばれる生地の両端に、糊をつけて固めるという、一見すると大変地味な作業です。
「リネンジャージー」は、ジャージー素材特有の性質として、裁断すると端からクルクルと丸まってしまいます。海外の量産工場などでは、コスト削減のためにこの工程を省き、丸まったまま出荷することも珍しくありません。しかし、それでは縫製工場での作業効率が著しく落ち、仕上がりの美しさも損なわれてしまうのだとか。
「耳が丸まってしまうと、縫製する人がいちいち手で伸ばしながら縫わなきゃいけない。それでは綺麗なTシャツはつくれません。だから、うちでは歯車のような機械を使って、生地の端にボンドをつけて物理的に固めています」
奥村さんに促され、私たちは高速で流れる生地の端がボンドによって綺麗に整えられていく様子に目を凝らします。
「海外の工場にもこういう設備自体はあるんですが、『お金がかかるから』ってそのひと手間を加えようとしてくれないんですよ。でも、縫いやすさを考えれば、絶対に外せない工程です。手間もコストもかかりますが、これは日本の丁寧なものづくりの証かもしれませんね」
最終製品のクオリティは、糸からはじまり、生地、加工、縫製までを含めたトータルで決まる。彼らのものづくりに対する姿勢や信念が、この工程に表れているといってもいいでしょう。ガミングのあとは、はみ出た糊や余分な糸をカットするという、非常に丁寧で細部にまで気を配った品質管理が徹底されていました。
蒸気を使った「スポンジング」でリラックス
さらに進んでいくと、工場の一角に白い蒸気が立ち込めているエリアがありました。ここでは、乾燥工程で引っ張られて“緊張”した状態の生地に対し、大量の蒸気を当てて“リラックス”させる「スポンジング」という加工が行われていました。「リネンジャージー」を使用した製品が支持されている最大の理由、その「心地よさ」を決定づけているのが、この「スポンジング」加工なのです。
「生地を“リラックス”させるというのは、つまり“縮ませる”ということ。乾燥のとき、生地は幅を出すためピンで引っ張られているので、“緊張”しています。それをこのスポンジングで解放してあげるんです」
奥村さんの言葉通り、蒸気を浴びた生地は、目に見えてふっくらとした表情へと変化していきます。
「最終的にお客様が洗濯したときに縮む分を、あらかじめこの段階で縮め切っておきます。そうすることで、製品になってからの縮率を大幅に下げることができる。さらに重要なのが、風合いの部分ですね」
リネン特有の「チクチク感」。これは繊維が硬く、緊張している状態で肌に触れることで生じます。しかし、スポンジングによって繊維がリラックスし、膨らみをもつことで、その刺激は劇的に軽減されるのだそう。
「縮みを抑えるために、薬剤でガチガチに固めるのは簡単です。でも、それではせっかくのリネンの良さが死んでしまう。生地をリラックスさせて、自然な状態で寸法を安定させてあげる。これが、『リネンジャージー』の心地よさの正体なのです」
シルケットを超えた、「デカ」加工という洗練
そして最後の仕上げとして行われるのが、「デカ(蒸絨)」加工です。 一般的に高級リネンシャツなどの生地には「シルケット(マーセライズ)」加工が施されます。これは劇薬である苛性ソーダに生地を浸し、繊維を人工的に膨らませ強い光沢と寸法安定性を得る手法。
しかし先述の通り、「リネンジャージー」には、あえてシルケット加工を行っていません。 その代わりに選ばれたのが、主にウールのスーツ地などの仕上げに使われる「デカ(デカタイジング)」加工でした。
「『リネンジャージー』開発時のコンセプトとして、『ピカピカした光沢は出したくない』というものがありました。それでいてカジュアルすぎるシワ感も抑え、綺麗に見せたい。その絶妙なニュアンスを表現するために、蒸気と圧力によって表面を整える『デカ』加工を採用したんです」
奥村さんは、その場で仕上がったばかりの生地を撫でながら説明してくれました。
「『シルケット』が“美容整形”だとするなら、『デカ』は“エステ”に近いかもしれません(笑)。繊維の表面を優しくプレスし、微細な毛羽を抑え込む。そうすることで、リネン本来のナチュラルさを残しつつ、同時に大人の色気をも感じさせるマットで落ち着いた艶が生まれるんです」
「シルケット」加工では、薬剤によって繊維の断面が丸くなり、均一な光沢が生まれます。しかしその代償として、リネンらしいネップ(節)やナチュラルな表情も薄れてしまう。それに対して「デカ」加工は、物理的な蒸気と圧力による仕上げ。 +CLOTHETのもうひとつの人気素材である「ハイブリッドコットン」が糸の毛羽を焼くことで光沢を得たように、「リネンジャージー」はウールに使われる蒸気と圧力を駆使した仕上げ技術によって、唯一無二のテクスチャーを手に入れたのです。
「引き算」ではなく、「足し算」の品質管理
すべての加工を終えた生地は、出荷前に厳しい検査を受けます。工場の一角には家庭用の洗濯機が並び、自然乾燥に近い状態で干されている試験布の姿がありました。
「データ上の数値だけでなく、実際に洗って、干してみて、どのように変化するか。できるだけお客様と同じ環境でテストを行い、合格したものだけが出荷されます。ここでは縮みや色落ち、ピリング(毛玉)の試験も行っています」
「シルケット」加工なしのリネン製品と聞けば、多くの消費者や業界人がコストカットや工程を省略した“引き算”と誤解するかもしれません。しかし、このソトーで行われていたのは、リネンらしさを犠牲にする「シルケット」加工に替わる、“最高品質”を生み出すための独自の“足し算”(スポンジングやデカ加工)だったのです。
取材の最後、奥村さんは工場の全景を見渡しながら語ってくれました。
「合繊の一大産地である北陸でも、ウールの名産地であるここ尾州でも、これだけの設備をもって、これだけの手間をかけて加工を行っている工場は多くありません。リネン専業ではない私たちが、ウールの優しさと合繊の機能を掛け合わせ、新しいリネンのカタチを作る───それは、日本が世界に誇る高度な染色加工技術だからこそ可能な、“発明”に近いプロセスだと自負しています」
ソトーの工場で行われていたのは、単なる染色加工ではなく、リネンという素材の魅力を再定義するエンジニアリングそのものでした。
「シルケット」加工に頼らない+CLOTHETの「リネンジャージー」素材は、高級リネン製品の新たなベンチマークとなるでしょう。手間を惜しまず、異分野の技術を貪欲に取り入れるソトーのものづくりが、日本特有の不快な夏を、過去のものとしてくれるかもしれません。
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