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植物由来の繊維「カポック」はダウン、合繊中綿に続く、ワタ入りアウターの可能性を広げる第三の素材です。商品開発に乗り出して2年。最終仕上げとしておよそ1カ月にわたるモニタリング調査を終えたカポックベストが11月、いよいよデビューします。
+CLOTHETでは「カポック」のポテンシャルを余すことなく引き出すべく、今年の初めにモニタリング調査を実施しました。応募数は予想をはるかに上回る407人。募集人員は20人でしたから、実に20倍強のファンが殺到したことになります。期待の高さがうかがえましたが、そこで明らかになったのはカポックを知らない人がほとんどで、しかもその評価は賛否両論でした。
「着ていると徐々に暖かさを感じるようになる。脱げばいっそうその暖かさがわかる」「ボリューム感のある見た目に比して、着心地は圧倒的に軽かった」という意見が挙がる一方で、「ダウンベストに比べれば保温性に欠ける」「ダウンのふっくらした弾力に慣れている身には重かった」との声も少なからずありました。
真逆の反応に少々戸惑いましたが、さらに分析を進めていくと意見が分かれた原因がわかってきました。モニターがどのような環境で、どのような着方をしたのかによって結果が左右されたようなのです。
また、コメントにもあるように、カポックはその佇まいからどうしてもダウンと比較されてしまいます。しかしカポックは繊維が絡まり合ったワタであるのに対して、ダウンは羽毛。着心地はまるで異なります。
カポックの風合いはしっとりとしています。その着心地は打ち込みのしっかりしたカシミヤコートにも通じるものがありますが、辛めの点をつけたモニターはダウンの包み込まれるような感覚を期待したのかもしれません。
一方、防寒具に求められる機能性はダウンに匹敵するものがあります。繊維内部にストロ ー状の空洞が広がる糸を中空糸といいます。化学繊維の技術者が盛んに開発競争を繰り広 げてきた糸ですが、この構造を生まれながらにして備えているのがカポックなのです。
カポック繊維は、内部が空洞になっているのが特徴。
空洞の割合を中空率といいますが、この割合が高ければ高いほど、軽量性、保温性、吸湿性が高まります。驚かざるを得ないのは、カポックの性能は技術の粋を集めた化学繊維をはるかに上回るということです。
そもそも多くのモニターがカポックのことを知りませんでした。にもかかわらず、半数以上のモニターに高く評価されたということは、見方を変えれば、むしろ今後認知度が高まれば、浸透する可能性のほうが大きいのではないか––––そう結論づけた+CLOTHETでは商品化に向けたラストスパートにかかります。
カポックを商品化するにあたり、肝に銘じたのは現代の都市型生活者が気兼ねなく袖を通すことのできる洋服であること。洗濯方法の確立も、モニター募集の目的のひとつでした。 使用後や洗濯後の変化を調査することで、さらに安定した品質を目指したのです。
モニターから回収した試作品はそのまま洗濯試験に回され、洗濯機や手洗いなど、さまざまな洗い方を検証。水を通したカポックは塊になろうとする性質があり、ひとたび固まってしまえば元に戻りません。そこで試行錯誤の末、たどり着いたメインテナンスの方法が手洗い後、速やかに乾燥機にかけることでした。この手順を踏んだカポックはおろしたてのようなしなやかさを保っていました。
カポックの開繊後のワタ。
モニタリング調査と洗濯試験を経て、+CLOTHETではいくつかの点を改良。試作品は運転やデスクワークが続くと背中のワタが痩せて硬くなりました。そこで、カポックの性能をキープするために、ワタの20%の増量と偏りを防ぐためのパックを採用することに。パックとはワタを詰めるパーツのことで、ダウンジャケットなどにも使われています。
ワタを詰めたパック。
また、肩の部分のカポックはワタではなく、シート状に成型したものに変更しました。リュックを背負うような負担のかかる状態が続くとワタが潰れてしまうためです。以上の改良により、懸念材料はほぼ払拭されました。とはいえカポックは繊細な素材です。普段からそれなりのケアをする必要があり、着用後はワタを整え、保管時はハンガーに吊るすのではなく平置きで、といったお手入れを怠らなければ末長く愛用できます。
デザイン面の修正ポイントはリブの見直し。襟は低くし、裾は排除しました。
デザインに関してもモニターの意見を踏まえて若干の修正を加えています。ひとつは裾のリブの排除。アウターとしての見栄えに重きを置いた結果です。もうひとつは、襟のリブの高さを見直し、試作品に比べて低く変更しました。これはパーカーなどをレイヤードする着こなしを踏まえたものです。
ブラックのベストという基本デザインはそのまま生かしています。ブラックはブランドイメージに当てはまるカラーであり、着まわしも利くのがその理由。ベストを選んだのは秋口から春先まで着られる息の長さからでした。奇を衒わないデザインは汎用性を追い求めた結果であると同時に、素材で勝負するという+CLOTHETのポリシーを反映しています。また、シェルは+CLOTHETを代表する機能素材「ソロテックス®︎」を採用。しなやかな手触りと艶やかな光沢がその特長です。
+CLOTHETでは、ダウン、合繊中綿に続く第三のワタ入りアウターの素材としてカポックに注目しました。木の実から採れるカポックは木を切り倒す必要がなく、農薬や化学肥料も不要です。機能的に優れるだけならず、環境にも優しい。ダウンの代替素材としてではなく、カポックの名で十分勝負できる、古くて新しい素材なのです。
固まったワタをほぐし、注入する開繊機。特許出願中。
日本での知名度はまだまだですが、海の向こうではすでに熾烈な開発競争が始まっています。世界の素晴らしい生地をあなたのクローゼットに届けたい––––カポックは、そんなブランドコンセプトにふさわしい素材であり、今後ますます発展する可能性に満ちています。だからこそ、+CLOTHETではファンの声に耳を傾け、改善を繰り返していくことで、その先陣を切る存在になりたいと考えています。
Photos: Tohru Yuasa
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