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2022年の秋以降、+CLOTHETにおいて販売数を大きく伸ばしているのがパンツです。きっかけとなったのは、はきやすさとシルエットの美しさをさらに高い次元で両立させるために行った「イージートラウザー」のリニューアルでした。そこで+CLOTHETでは、好調のイージートラウザーと同じ型紙を使い、パンツのバリエーション拡大に着手。新たにドレス顔のカーゴパンツが登場します。
一度気に入ってしまえば、買い足そうと思ったときに、場所や時間の制約を受けずに手軽にオーダーできるのがEコマースの大きなメリット。事実、ベストセラーの「テーラードTシャツ」は、そうした熱烈なファンに支えられ、素材やデザインのバリエーションを拡大してきました。そして現在、人気のTシャツに次いでリピーターが続出しているのがパンツです。
発端となったのは、2022年秋に行った「イージートラウザー」のリニューアルでした。このパンツは20年の登場以降、細くてはきやすいシルエットが評判となり、支持を集めていましたが、さらなる完成度を求めて型紙を修整。少しゆとりがあるのに細く見えるパターンにつくり直したことから、これまで以上に体型を問わず、きれいにはけると既存のファンを中心に販売数を急速に伸ばしています。
1987年生まれの五十嵐徹氏は、大学在学中にテーラリングの修行をスタートし、2014年にトラウザーズ専門のビスポークハウス「IGARASHI TROUSERS」を創業。人体の構造や普段の生活のくせなどを考慮したオリジナルの型紙によるパンツづくりに定評があり、日本国内だけでなく、アジアや欧米でも支持されています。
+CLOTHETのパンツを監修するテーラーの五十嵐徹氏は、ブランド初のカーゴパンツが誕生した背景をこう語ります。
「イージートラウザーのリニューアルは、あくまでもいまの時代に即した型紙にアップデートさせることが狙いでした。それが販売数増につながったことで、わたしたちの考えが正しかったことが証明された。それなら、この型紙とシルエットを転用して、カジュアルなパンツをつくったらもっと着こなしの幅が広がるんじゃないかと思ったんです」
新型コロナウイルス感染症の流行でリモートワークが急速に浸透した影響もあり、ビジネスの場面でドレスクロージングを着る機会が減少しましたが、コロナがほぼ収束したいまもその傾向は続いています。ただ、カジュアルに振れ過ぎると、今度はドレスへの揺り戻しが起きるのは、これまでの流れからいっても明らか。五十嵐氏はそういう意味でも、カジュアルにもドレスにも使える+CLOTHETのカーゴパンツは時流に合っていると説明します。
JR新宿駅から特急電車で約90分。山梨県屈指の温泉郷の玄関口である石和温泉駅からクルマで10分ほど走ると、ビスポークトラウザーズハウス「IGARASHI TROUSERS」の本社兼アトリエの目印となる黒い三角屋根が見えてきます。以前は山梨県民信用組合が入居していた建物だそうで、商談やイベントを行うショールームとして使っているという1階の奥には、当時の面影を感じることのできる大型の金庫扉がありました。
「都心からアクセスのいい山梨県へ本社移転を決意したのが2018年。前は甲府市内を拠点にしていましたが、昨年末にここに引っ越してきました。ものづくりにおいて最も大切なのは、つくり手、縫い手のメンタルケア。特に、ぼくたちのような手仕事が多く繊細さが必要とされる作業には、都会のノイズは邪魔になりかねません。心の状態を健全に保つことが製品の出来栄えにつながってくるので、リラックスできる自然豊かな環境のほうが絶対にいい仕事ができると思うんです」
山梨県笛吹市にある本社兼アトリエ。五十嵐氏を含めたスタッフは全員、移転と同時に近隣に引っ越して自然に囲まれた暮らしを満喫しているそう。クルマで河口湖まで約30分の距離。
以来、IGARASHI TROUSERSにはそうした考えに共感する将来有望な若手職人が日本全国から集まり、現在は五十嵐氏のもとで合計8名のスタッフが年間2,000本以上のパンツを仕立てています。オーダーの際に収集されたデータは、レディ・トゥ・ウェア(既製服)製造のための型紙づくりに活用。そこで得た知識と経験は、もちろん+CLOTHETのパンツにも反映されています。
2階はアトリエとして使用。国内のテーラー業界では職人の高齢化や後継者不足といった問題が取り沙汰されるようになって久しいなか、IGARASHI TROUSERSのスタッフは若手が中心のため、経験を積むほど技術の習熟度が増し、仕事のクオリティとスピードを上げていきます。
カーゴパンツの構想は、+CLOTHETの古着好きの企画メンバーからの要望もあり、前々からありましたが、機が熟したのがこのタイミング。これぞと思えるパンツの型紙がイージートラウザーのリニューアルで完成したことと、適切な素材が見つかったことが引き金になりました。
カーゴパンツに使われている素材は、通常のドレスパンツのそれと遜色のない雰囲気ながら、アクティブな動きを妨げない伸縮性など、さまざまな機能を兼ね備えているのがポイント。自宅で洗濯できるメインテナンスの手軽さも魅力です。
カーゴパンツに採用したのは、+CLOTHETの運営会社が展開するオリジナルハイブリッド素材「TECHWOOL®︎」シリーズのひとつ。ウールをベースにポリエステルを組み合わせてつくられた2WAYストレッチ素材で、キックバック(※1)に優れているのが特長です。
※1)生地を伸ばした後、元のかたちに戻る力のこと。
「従来のカーゴパンツはコットンが主体のものがほとんどですが、+CLOTHETのファンはミリタリーに振ったようなものをほしがる層に思えなかったので、逆にドレスパンツをカジュアルな方向にもっていくほうがいいと考えました。素材はいくつかの候補がありましたが、膝抜けする可能性があるものは吟味しながら慎重に排除。その点、TECHWOOL®︎のこれはそうした条件を満たしていながら、カジュアルなデザインにアレンジしても上品な雰囲気に仕上がりそうだったのが決め手となりました」
その後、アメリカ軍が生んだ名作「M-65フィールドパンツ(※2)」のディテールを参考に+CLOTHETの企画チームがサンプル(試作品)を製作し、修整が必要だと思える箇所を五十嵐氏が細かく確認。そして、当初の計画よりカーゴポケットをひと回り小さくして付け位置を下げたほか、その角度にも手を加えることにしました。
※2)1965年に「M-65フィールドジャケット」とともに採用されたミリタリーパンツ。
カーゴポケットは内側を2層構造に、ボタンが外側に露出しないフラップなど、「M-65フィールドパンツ」のつくりを踏襲。オリジナルにはポケットにプリーツがあり、ストラップが付いていますが、それらのディテールは省略しています。
「ウエストが前下がりになった細身のテーパードパンツでは、サイドシームに対してカーゴポケットを垂直に縫い付けると、はいたときに正面から見ると曲がって見えてしまいます。これを真っ直ぐに見せるためには、ポケットを斜めにして前下がりに調整する必要があります。1プリーツやウエストゴム、内側の仕様など、つくりはイージートラウザーとまったく一緒ですが、デザイン的な要素が増えた分、そのバランスで完璧なのかを入念にチェックしました」
カーゴパンツとはいってもミリタリー色を抑え、これまでの「イージートラウザー」愛用者がすぐに受け入れられるようにバランスを緻密に計算。まさに、これまでありそうでなかったアイテムといえそうです。
カラーはブラックとグレーの2色で展開。通常のウールのドレスパンツと同じように、ジャケットやコートと合わせても違和感なく、カジュアルなコーディネイトではハイゲージ編みのニットウェアで品よく、あるいはレザージャケットなどを上にはおっても絵になりそうです。裾の仕上げはシングルとダブルから選べますが、五十嵐氏のおすすめはシングル仕上げ。裾丈はジャスト丈にするのがいいと解説します。
ドレスだけではなくカジュアルスタイルにも合わせるなら、裾の仕上げはシングルにしたほうが使い勝手がいいそう。
「いまのファッション業界では裾口が太いパンツが主流なので、長めにはくのがトレンドですが、このカーゴパンツは細身のすっきりとしたシルエットなので、クッションの溜まりが多いとかたちがくずれてしまいます。そのため、ぎりぎりクッションが入るか入らないかぐらいの裾丈のほうがきれいに見えるでしょうね」
相性のいい靴を尋ねると、チャッカーブーツやローファー、スニーカーにも似合いそうとの回答。さらに、裾口が細いので、ハイカットの靴に合わせてシングルの裾を無造作にロールアップして、少し短めにしてはくのも洒落て見えるというコメントと一緒に、こんなアドバイスもしてくれました。
「センタークリースを入れて販売しますが、洗濯すると簡単にとれるので、カジュアルにはくときは、プリーツ周りだけアイロンがけをして、その下のクリースは消してしまってもカッコよくはけると思いますよ」
今後の展開に話が及ぶと、五十嵐氏からは斬新なアイデアが続々。かたちを変えず素材で遊ぶだけでも、面白いものがいろいろできそうだと微笑みます。いずれにしても、+CLOTHETのパンツがこの先どんな進化を見せるのか、期待できるのは間違いなし。今回のカーゴパンツの登場は、ここから始まる快進撃のプロローグに過ぎません。
カラーはブラックとグレーの2種類。写真は「2way stretch cargo trousers」。
Photos: Tohru Yuasa
2020年の登場以降、快進撃を続けてきた「イージートラウザー」が、この秋リニューアルします。なぜ根強い人気を誇っているパンツに、あえて手を加える必要があったのか。そこには、+CLOTHETのパンツを監修するテーラー・五十嵐徹氏のインタビューを公開。
ブランドの定番イージートラウザーはどのようにして生まれたのかパンツを監修するテーラー五十嵐徹氏のアトリエを訪ねました。【後編】ではイージートラウザーが支持される理由について紐解きます。
テーラー五十嵐徹氏の監修により2020年に誕生した「イージートラウザー」は今やブランドを代表するパンツとなりました。今回は独自路線を歩むこのパンツはどのようにして生まれたのか、+CLOTHETのパンツを監修するテーラー・五十嵐徹氏のアトリエを訪ねました。
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