My T-shirts, My Life
-Tシャツのある日常- vol.17
-Tシャツのある日常- vol.17
Tシャツには不思議な魅力があります。シンプル極まりないけれど、Tシャツにかける愛情やこだわりは人それぞれ。連載「Tシャツのある日常」では、さまざまな分野の第一線で活躍する人たちのライフスタイルを通して、Tシャツにまつわるエピソードや仕事への思いを聞いていきます。
“心”を映す手描きの線で、時代と対話するグラフィックデザイナー
collé代表・山口崇多|No.17
今回お話を伺ったのは、あるときは企業からの依頼をカタチにし、ブランディングを担うアートディレクター。またあるときはパーソナルな創作を行い、自身のブランドを手掛けるグラフィックデザイナー。さまざまな垣根を超える自由で軽やかな表現を発信している、デザイン事務所「collé」代表の山口崇多さんです。
フリーハンドで描かれるアナログな線を好み、独創的なアイデアと色使いで時代と人に優しく寄り添う山口さんの表現世界に触れるため、東京・青山にあるアトリエを訪問。柔らかな陽光が差し込むアートギャラリーのようなショールームで、キャリアの道程、デザインへのこだわり、時代との向き合い方など、多彩なテーマについて率直な想いを語っていただきました。
「話のネタになればと、いくつかの作品をご用意しておいたんですが」
そういって見せてくれた山口崇多さんの作品は、ペンやブラシなどのアナログな筆致が際立つ、優しく柔らかな色合いの紙ものがほとんど。効率とスピードが支配するデジタル全盛の現代において、山口さんの作品はその独特な“手描きの線”で異彩を放っています。ではなぜ山口さんは手描きにこだわり、彼の描くラインやフォルム、色彩は、これほどまでに私たちの目に留まり、心に温かい感触を残すのでしょうか。
「現代はグラフィックデザインの仕事や媒体も大きく変化しており、仕事もAIなどの影響を受けている。それに私たちは、決して大きな制作会社ではありません。だからこそ、自分たちだけの“世界観”を気に入ってくれる方を大切に、ひとりでも増やしていきたいと思っているんです。手描きにこだわっていると、AIに関する取材を受けることも多い。AIにはできないプロセスを意識して、表現に取り入れることもありますね」
山口さんにとって、ペンや絵の具による手描きはノスタルジーを強調するための技法ではありません。自身のアイデンティティや感情を表現するための、極めて合理的かつ戦略的な選択なのです。多くのクライアントや支持者たちは、山口さんならでは、手描きならではの予測不能な揺らぎやエモーショナルな温かみに、唯一無二の価値を見出しているに違いありません。
この日、山口さんが身につけていたのは、スビンプラチナムを使ったTシャツのなかでも、特にリラックスした肌触りと着心地が味わえる、「Micro Pile Comfort T-shirt」でした。
山口さんの好みは、非常にシンプルです。「毎日のように着用している」というTシャツは、基本的にすべて白。グラフィックやロゴ入りのものは選ばず、着用感に優れシンプルかつ機能的であることをよしとします。
「多くのクリエイターの方がシンプルなアイテムを好むのは、やっぱり創作に集中したいからだと思うんです。ユニフォームのようにいつも同じものを着ていれば、そこに意識を向ける必要すらありませんからね」
「さまざまな白Tを試したうえで、最も耐久性に優れるタフでシンプルな白Tを選ぶようになっていた」という山口さん。しかしそんな“結論”の見直しを検討せざるをえないほど、このパイル地Tシャツの上品な面構えと極上の柔らかさに魅せられてしまったようです。
「肌触りがすごくいいですよね。スムースな生地のツルっとしたタッチもよいけれど、これはフワっと、サラっとしている生地の柔らかさをダイレクトに感じられるというか……。最高級のタオルに包まれているかのような心地よさを感じます」
実用を意識し、心地よさというメンタルに直結する物質的な手触りにこだわる───意外や意外、グラフィックデザインとTシャツには、深層でつながる本質的な共通項があったのです。
山口さんはデザインというフィールドを非常に広く捉え、漫画を描くこともあれば、立体物を作ることもあるそう。そんな山口さんの表現の魅力を引き立てる要素のひとつが、紙という素材です。
「少し変かもしれませんが……、紙にはまるで生き物のような、フィジカルな部分があります。ウチのアトリエは中二階のようになっていて、こっち(1階のショールーム)とはちょっとした階層差がある。そのちょっとした湿度の差によっても、手触りや反り具合が変わったりします。紙は、それくらい繊細な素材なんです」
湿気でシワシワになったり、人の重さに耐えられるほど頑丈になったり、折ったり曲げたりして形状を自由に変えられたり……、2次元ではなく、3次元で捉えることができる。そんな無限の可能性をもつ紙に魅了され続けているのだとか。
「(紙という素材は)毎回どんなに追求しても、次々と課題が出てくるんです」と笑う、山口さん。この素材と向き合う時間は、グラフィックデザイナーにとって「新しい可能性を見つける時間」であり、非常に有意義だといいます。
同じグラフィックでも、紙に直接描いたもの、印刷されたもの、印刷されたものを画面に取り込んだものは、すべてが異なる。その違いを把握し、物質や素材として表現することを意識しているという山口さん。画面のなかだけでなく、印刷、素材感、光の差、そして空間のなかでの表現など、複雑に絡み合う要素を計算して表現するのが、グラフィックデザイナーの本分なのだと教えてくれました。
山口さんの経歴は、ちょっとユニーク。ともに画家として生計を立てる両親のもとで育ちながら、自分自身はアートの道に強く惹かれず、文系の一般大学へと進学。卒業後は就職を志すも就職氷河期のなかまったく内定を得られず、「やりたいことも見つからない」という厳しい現実に直面することに。そこで、自分自身の根源的な欲求と深く向き合うことになったのだとか。
「漠然と、ミュージシャンにはなりたかったですね。音楽をやっていて、プロになりたいという想いはありました。ただ、職業として『これになりたい』というものが、本当にありませんでした」
アートが身近にあったからこそ逆に、その道をまっすぐに歩むことに抵抗を感じたのかもしれません。しかし「嫌いではなかった」絵を描くことに改めて、真剣に取り組んでみようと考えた山口さんは、美術予備校に通い始めることにしました。
「毎日絵を描くことがすごく楽しくて、どんなに大変でもまったく苦になりませんでした」
それは描くことに対する純粋な喜びに目覚め、一度は距離を置いた芸術と表現の世界が、自らにとってかけがえのないものだと確信した瞬間でした。そこで両親の応援を得て、本格的に東京芸術大学を目指すことにしたのだといいます。しかし受験したのは、一貫してデザイン科。 クライアントワークの中でも表現を生かせることを知り、グラフィックデザインの道を志すようになったのです。
社会の現実を知ったうえで、本当に好きなことを追求する学びの場に戻る───回り道とも思える道筋が、学ぶことに対する渇望とポジティブな姿勢を育み、山口さんの創作活動における情熱の尽きせぬ源泉となったのです。そしてこの覚悟は、彼を単なる表現者ではなく、明確な意志を持つ「デザイナー」へと導いていきました。
デザインという仕事は、時代性を反映するとともに社会との密接な関わりが求められる分野です。そこで山口さんが最も大切にしているのは、「自身の心境やメンタル」といった、パーソナルで内面的なものを表現に込めること。
「たとえネガティブな部分であっても、自分の心の内を積極的に表現していくことを意識しています。身体表現としての自分の感情は、すごく大切ですね。転機となったのは、仕事ではないのですが、昨年ぐらいから個人的なグラフィック作品を自主制作のレポートのようにInstagramで発信しはじめたことです」
以前は「デザインとはこうあるべき」という原理的な考えや強いこだわりをもっていたという山口さん。しかし、コロナ禍で仕事が減少し、人との関わりも失われていることに寂しさを感じたとき、「下手くそな落描きのようなもの」をグラフィックとして、表現のなかで使えないかと考えはじめました。
ブレイクスルーとなったのは、「face myself」という山口さんの自画像ともいうべき作品です。これはコロナ禍で落ち込んでいたとき、鏡に映った自分が歪んで見えたという心境を、直接的に表現したもの。このように気分やパーソナリティ、エモーションをデザインに載せることが、見る人を惹きつける力になると確信するにいたりました。
山口さんはキャリアやブランド展開などにおいて、社会人となった当初から明確な目標を設定し、実現してきた人。しかし現在は、「日々のやるべきことに流されて、これからどうしようかと、悩んでいる時期なんです」と正直に明かしてくれました。
「でも、やりたいことはたくさんある。特に軸足としているグラフィックデザインには、まだやりきれていない“余地”があると感じています。トレンドや時代の流れこそあれ、グラフィックデザインとは、『余白に対して図形と文字を入れる』というシンプルな行為。シンプルであるからこそ、追求しても追求しきれない奥深さがあるんです」
一時期は家具制作などにも興味を抱いたという山口さんの視線は、いま、改めて「もっとグラフィックを突き詰めたい」という、自身の核へと回帰しています。そして100年後であっても旧びることのないデザインへの憧れと、先人たちが築いた歴史への敬意。山口さんの表現に対する探求は、さらなる深度へと向かっているようです。
「個人的な感情や考えをデザインに取り入れることが許容される時代になった」いま、山口さんの作品から醸し出される柔らかさ、人間臭さ、温かみのあるムードというものが、世の中をほんの少し優しくしてくれるかもしれません。
グラフィックデザインには、世界をよりよくする力があるのです。
山口崇多
1988年、東京都生まれ、福岡県育ち。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。10
inc.を経て、2019年collé設立。グラフィックデザインを軸として、企業のブランド開発など、幅広いジャンルのクライアントワークを行う傍ら、自身の心境を率直に表現する手描きの作品を制作・発信し、国内外で高い評価を得ている。公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)正会員。JAGDA新人賞2024受賞。活動のフィールドを限定せず、立体物やブランド展開など多岐にわたる活動を行う。
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Photos: Tohru Yuasa
160年以上、生地の企画・製造・販売に携わってきた私たちだからこそ、自分たちが認めた生地を直接消費者に届け、その価値を知ってもらうことを第一に考えて開発したこだわりの商品です。
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