スビンプラチナムの可能性を広げる「リアクティブデニムシャツ」

リアクティブデニムシャツ1

根強いファンが多い希少原料「スビンプラチナム」は、とろけるような柔らかなタッチが持ち味です。+CLOTHETではTシャツやニットウェアのほかに、以前からシャツでもその風合いを再現する取り組みを行ってきました。しかし、これが思った以上に難しく、構想から試行錯誤すること約3年。今回は、待望のスビンプラチナムを使った「リアクティブデニムシャツ」誕生の舞台裏に迫ります。

編みだけでなく、織りでも


世界でも最高品質の超長綿のひとつとされる「スビンプラチナム」の可能性をもっと広げたい。これはデビュー以来、+CLOTHETがチーム一丸となって取り組んでいるテーマです。ただ、ジャージーやニットといった編物では数々のヒット商品を生み出してきた一方で、織物(布帛)の素材開発では長らく苦戦が続いていました。

+CLOTHETの場合、Tシャツでスビンプラチナムと特有の油分を含んだしっとりとした風合いをすでに体感しているファンが多いため、布帛でそれを再現しようとすると必然的にハードルが上がってしまいます。というのも、編物が糸をゆるく絡ませながらつくるのに対して、織物はタテ糸とヨコ糸にある程度張力をかけて交差させてつくる構造上の違いから、同じ糸を使っても後者のほうが硬く感じられるのは当たり前のこと。それでもテキスタイルのエキスパートとして、スビンプラチナムを使った布帛の完成をあきらめるわけにはいきませんでした。

+CLOTHETでは、数年前から国内の繊維産地にあるいくつかの有力工場に協力してもらい、さまざまなサンプル(試作品)づくりに挑戦してきましたが、スビンプラチナムの持ち味である柔らかな風合いが上手く表現できず、なかなか納得のゆくレベルに到達できずにいました。繊細な糸の性質に配慮するあまり、糸の打ち込み本数(※1)が多過ぎたのか、双糸(※2)使いにしたのが悪かったのか。改善策が見えないまま時間だけが過ぎていきます。

※1)綿織物における、1インチ(2.54センチ)あたりの「タテ糸」「ヨコ糸」の合計本数のこと。
※2)2本の糸を撚り合わせた糸のこと。細い糸は1本の単糸だと強度が弱いため、双糸にして使われることが多い。


停滞していた状況が動いたのは、岡山県倉敷市児島地区にある織物メーカー、ショーワの生地見本がきっかけでした。もともと同社はライトオンスデニムに定評があったことからサンプル制作を依頼。そこから商品化への道が一気に拓けます。


岡山県児島地区

かつては瀬戸内海に浮かぶ島だった児島地区は、江戸時代の干拓によって陸続きに。その影響から塩分に強い綿花を栽培し、先人たちはそれを用いた繊維業を発展させてきたといいます。

解決の糸口はデニムの聖地・児島に


倉敷市の中心部から南に約30キロメートルのところに位置する児島地区は、「国産ジーンズ発祥の地」として知られ、その後、数々のジーンズメーカーが生まれたことから、いつしか「デニムの聖地」と呼ばれるようになりました。しかし、1980年代に始まった海外の競合との厳しい価格競争で、この地の機屋や加工場は大打撃を受け、デニム製造のかかわる業者の数は激減。それでもショーワが生き残ってこられたのは、次代を見据えた鋭い洞察力と、優れた技術力があったからでした。


株式会社ショーワ

1905年創業のショーワは、足袋などに使われる白生地の機屋として始まり、現在ではデニムを中心としたオリジナルの生地を生産・販売するメーカーに発展。


輸入品の安価なデニム生地が世の中を席巻し始めたころ、ショーワでは大量生産・大量消費を前提とした市場に見切りをつけ、高付加価値商品の製造を目指して独自の素材づくりを開始。ショーワが得意としている、細いコットン糸を使った薄手のデニム生地を初めて考案したのは約40年前でした。糸は細ければ細いほど取り扱いが難しくなりますが、当時どこもなし得なかった挑戦が可能だったのは、各工程が分業制なのが普通の児島で、唯一、染めから織り、仕上げ加工まで一貫生産できる体制を整えていたため。そのことが開発において大きなメリットになったといいます。


タテ糸をつくる整経工程

タテ糸をつくる「整経工程」。染色が終わった糸を「ビーム」と呼ばれる大きな金属製の糸巻きに巻き取っていきます。


一般的なデニム生地は20番手(※3)のコットン糸からつくられますが、ショーワでは現在80番手まで対応が可能。周囲には30番手ですら手がける機屋がほとんどいないなか、絶えず見直しと改良を重ねながら、独自にライトオンスデニムを進化させてきました。従来の硬くて重いデニムのイメージを払拭する柔らかな風合いの軽い生地には、長年に渡って蓄積されてきたショーワの知識と経験が凝縮されているのです。

※3)番手は糸の太さを表す単位。数値が大きくなるほど細くなり、綿番手、毛番手、麻番手などがある。


+CLOTHETチームがショーワと一緒にデニムシャツをつくろうと考えたのも、これだけの実績があるのなら、同社の技術力をベースにして糸をスビンプラチナムにアレンジすれば理想の布帛に近づけるかもしれないという確信めいたものがあったからだといいます。


クロスクローゼットがオーダーした最初の生地サンプル

+CLOTHETがオーダーした最初のサンプル。この手触りを感じた瞬間、商品化をほぼ確信したといいます。

これまでにない革新的なデニムシャツを


実際、でき上がったサンプルは、これまでの苦労が嘘のように最初からほぼ手直しするところがないといえるほどの完成度。なによりこだわっていた手触りも、スビンプラチナム原料の素晴らしさが伝わってくる十分な出来栄えでした。細い糸でデニム生地を織るには織機の設定が難しく、タテ糸にかかるテンションを調整しながら行いますが、それに加えてその前の「サイジング」と呼ばれるタテ糸に糊を付けて織りやすくする工程も重要になります。


サイジングの工程

糊の濃度や粘度、温度管理にも卓越したノウハウが不可欠な「サイジング」は、前後の工程も含めた総合的な技術力が試される現場でもあります。


染色は「リアクティブデニム」に使われる反応染料と、インディゴ染め、顔料染めの3種類を試してみて、最終的に色落ちしないリアクティブデニムに決定しました。


織り工程

サイジング工程後に行われる「織り工程」。ショーワは細番手のコットン糸を使った薄手のデニムだけでなく、ウールやシルク、カシミヤ、ナイロンなど、さまざまな原料を使った風合い豊かなデニム生地を製造しています。


スビンプラチナムの115番サイロスパン(※4)を使った今回の「リアクティブデニムシャツ」では、独特の光沢となめらかな手触りはもちろん、非常に軽量な生地に仕上げているのも特徴です。また、これまでドレスカジュアルの領域を切り拓いてきた+CLOTHETらしく、このシャツでもあえて本格的なパターン(型紙)を採用し、ホリゾンタルカラーや大きくカーブしたカフス、本白蝶貝を用いたボタンなど、随所にエレガントな要素をちりばめることで、デザイン面でも生地の美しさを際立たせました。

※4)IWS(国際羊毛事務局)によって開発された特殊糸の一種。


さらに、インディゴ染めのデニムシャツの場合は、ほかのアイテムへの色移りの不安がありますが、色落ちしないリアクティブデニムならそうした心配は無用。これからの季節に映える白のコットンパンツなど、淡い色のボトムスとも難なく組み合わせられます。

リアクティブデニムシャツの誕生は、スビンプラチナムの展開におけるほんの序章に過ぎません。布帛でもその風合いが再現できるとわかったいま、その可能性は大きく広がっています。次はどんな生地にして、どんなアイテムをつくろうか。+CLOTHETの新たな挑戦はすでに始まっています。


リアクティブデニムシャツ2

カラーはインディゴとブラックの2種類。さまざまな着用シーンが期待できる趣あるスタイルです。写真は「Suvin Platinum Reactive Denimi Shirt」

Photos: Tohru Yuasa



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