Trousers Tailor 五十嵐 徹氏

 


「五十嵐トラウザーズ」の代表を務める五十嵐徹氏は、日本では稀少なパンツ専業のテーラー。日本ではもちろん、世界7カ国でトランクショーを開催し、世界的に評価されている職人の一人です。

“日本人が似合う、穿きやすくカッコいいトラウザーズをつくる”というコンセプトのもと、骨格、筋肉の付き方など、人体の構造や生活のクセなどを考えた型紙は自身の真骨頂。

「+CLOTHET」では、五十嵐氏が積み重ねてきた経験を製品に落とし込むことで、日本人のニーズに合ったパンツを開発しています。



■ 挑戦する人が少ないからこそ、独占市場になる


テーラーの中でも、パンツ専業の職人を志す方は稀有。その理由は、パンツというカテゴリーの性質にあります。

消費者の中に“消耗品”というイメージがあるシャツは回転率が高く、ジャケットは単価が高くビスポーク業界でも成功しやすい分野とされています。ところが、パンツは長く愛用できる丈夫さを求められている反面で、あまり高価なものは売れないというジレンマを抱えています。そんな市場のせいもあって、“一番失敗しやすいカテゴリー”と言われているのだとか。

五十嵐氏が、パンツ職人を志す際にも周囲の方々から強く止められたと言います。


 

「先輩方に『絶対に失敗するからやめておけ』と言われました。でも、僕は負けず嫌いですので、逆に『やってやろう』と思いましたね。それに絶対に失敗すると言う人が多いということは、その人たちは100%新規参入してこないということ。そのカテゴリーで一番になる方法さえ見つけてしまえば独占市場になると考えたんです」。

厳しい市場へ前向きな思考を武器に挑んだ五十嵐氏。そうは言っても、自身のブランドを立ち上げたばかりの頃は世間からの風当たりも強かったのだそう。

「年齢が若かったこともあり、嘲笑されることも多々ありました。パンツ職人と言ったら、『え、下着の?』と言われたり、『パンツはどうせ下請けだから、上着の職人に比べて技術はないんでしょ?』と思われることもありましたね。でも実際には、上着はボタンを外しても着ることができたり、着脱することができますが、パンツとなるとそうはいかない。一日中穿いているものなので、より耐久性や穿き心地にこだわらなければいけないですし、構造としても4枚の生地で仕立てている分、シンプルで技術がいるんです。幅を数ミリ変えるだけで、まったく違うものに仕上がりますからね」。




■  お客様のニーズを、どこまで落とし込めるか

構造がシンプルだからこそ難しいパンツ作りにおいては、針の穴を通すように繊細なバランス感覚が求められると五十嵐氏は語ります。

では、そもそも“良いパンツ”というのはどのようなものなのでしょうか。

「ビスポーク、パターンオーダー、既製品のそれぞれによって“良い”の条件は異なります。まず、ビスポークにおいては『穿きやすい』と『シルエットが綺麗』というのは当たり前のことなんですよ。そうでなければ、高いお金を払って買う意味がないじゃないですか。では、それ以外に何を求めるのかと言った時に、僕は『話し合い』だと思っています。お客様ととことん“良いパンツ”について話し合い、お互いがかっこいいと思うものを作れるというのが最大の売りなのではないでしょうか。パターンオーダーは、それをよりクイックな納期にしたものですね」。



「一方、レディトゥメイド(既製品)に関して言えば、『お客様が今欲しいものをいかに作れるか』ということが大切だと思います。たとえば、どこどこのブランドのパンツがすごく売れていますと言った時に、職人としての目線で見れば、『クオリティとしてはいまいち……』と思うことも多々あるんですよ。でも、お客様にとってのニーズをすべて落とし込んでいるという点で言えば、それは“良いパンツ”ですよね。良さというのは、人それぞれ異なるものなので、ビスポークにしても既製品にしても、どこまでお客様が求めているものに近づけられるかということが大切だと思います」。



■  柔軟な発想と実行力で、世界一の受注数を目指す

「五十嵐トラウザーズ」では、一月で約100本ものパンツ作りを手がけています。しかも、大量生産とは異なり、お客様のニーズとどこまでも向き合い、納品までのスピードも一般的なテーラーのそれよりも早いと言います。

その秘訣はどこにあるのでしょうか。

「会社として一番こだわっているのは、品質や穿き心地の良さにこだわるというのは当然としてさて置き、かっこいいパンツをいち早くお客様に届けることです。弊社の場合、都内のお客様ですと2ヶ月程度。早い場合は1ヶ月でお届けすることもあります。職人的な考えで言えば、時間をかけて品質を高くしなければいけない。経営者的な考えで言えば、量を作らなければいけない。でも、それを全部分解して考えると、クオリティの高いものを短時間で作れて、納品のサイクルを早められたら解決するということにたどり着くんです。そのせいか、他のテーラーさんから『あそこは手を抜いている』と言われることもありますが、そうではないんです。作るスピードというのは限界までいくと早くならないんですよ。ミシンのスピードも同じ機械を使えばさほど変わらないですよね。それなら、それ以外の部分をいかに早くするかというだけの話だと思うんです。発想を切り替えたら、あとはやりながら改善し続けるだけです。



『五十嵐トラウザーズ』は、代表的なグルカパンツが広告塔になり、よく『選択肢の幅が広い』と言われることがあります。ですが、それはお客様と私自身が、かっこいいと思うものを作り続けた結果なんです。たとえば、クラシックなスタイルが好きなお客様が『フレッド・アステアみたいなパンツが欲しい』と言えば、それに対する資料を集めて研究しながら作っています。そういう意味では、あらゆるニーズに応えることができると思っています」。



 

■  「+CLOTHET」へのこだわり。

「一番こだわったのは、ベースとなる型紙です。僕のパンツの特徴は、パンツの幅の実寸に対して、細く見せることができること。たとえば、裾口が21cmのパンツを数字だけで考えると今の時代の感覚で言えばすごく太い印象。ですが、それをまるで裾口19cmのパンツのように美しくシャープに見せることができるんです。それが可能になると、実際に着用した時にゆとりがあるので、穿いている本人も楽なんです。さらに生地に余計な負担がかからないので長く愛用していただくことができます。これは、何千本とビスポークでパンツを仕立ててきた際に集めたデータによる賜物。たとえば、人間の膝位置は身長に関わらず、ある程度同じバランスになるということが分かるので、そこから美しく見える“黄金比”を導き出すことができます。そういったこだわりを随所に落とし込んでいます。商品企画というのは、僕にとっても初めての試み。だからこそ、今までに『五十嵐トラウザーズ』で蓄積してきたデータを存分に活用して作らせて頂きました。ウールのトラウザーだけではなく、休日に活躍するコットンパンツもありますので、ぜひ一度試して頂きたいです」。



「+CLOTHET」のパンツには、五十嵐氏の長年の“研究成果”が惜しみなく落とし込まれています。

日本人の体型を熟慮して作られた渾身のパンツは、着用する方に従来のパンツの概念を超える感動を与えてくれるはずです。ぜひ一度、脚を通してご堪能くださいませ。