My T-shirts, My Life
-Tシャツのある日常- vol.12

Tシャツには不思議な魅力があります。シンプル極まりないけれど、Tシャツにかける愛情やこだわりは人それぞれ。連載「Tシャツのある日常」では、さまざまな分野の第一線で活躍する人たちのライフスタイルを通して、Tシャツにまつわるエピソードや仕事への思いを聞いていきます。

キャンプギアに囲まれた重弘剛直氏

アウトドアへの情熱とものづくりを融合させるスタイルクリエイター
neru design works 代表・重弘剛直|No.12

キャンプギアガレージブランド「neru design works」を手掛けるneruこと重弘剛直さんは、大量生産、大量消費からの転換期を迎えた現代を象徴する作り手であり、SNS全盛の現代におけるカルトヒーローのひとり。ブランドの起源であるフルハンドメイドのレザークラフトはもちろんのこと、さまざまなジャンルのクリエーターたちとのリレーションシップによって生まれるプロダクトの数々は、日本のみならず海外のファンも垂涎、発売すれば“即完”の連続だといいます。経年“優化”するこだわりの製品を通じて、日本のものづくりへの貢献を目指す───そんなクリエーションの根底にある想いに迫るべく、東京・二子玉川にある重弘さんのオフィスを訪ねました。

重弘剛直氏・キャンプギアガレージブランド「neru design works」オフィスにて

「僕は広島出身の田舎者。だからいまでも東京には馴染めないし、できる限りキャンプをするなどアウトドアで過ごしたいと思ってます。日本でもコロナ禍を契機に人気に火がついたキャンプですが、世界的に見ると日本のキャンプ文化というのはかなり独特。『キャンプしに行こう!』なんて言ってるのは、実は日本人だけなんですよ(笑)。キャンプをするためにキャンプに行っているというか……。海外の人は、泊まりがけで山登りや外遊びを満喫したいから、ホテルステイではなくキャンプをする。でも日本では本来“手段”であるはずのキャンプが、“目的”になってしまっているんです」

そう語る重弘剛直(neru)さんが自ら使いたいと思うもの、あったらいいなと思うものをカタチにするべく立ち上げたのが、キャンプギアガレージブランド「neru design works」です。さらには愛するキャンプを一過性のブームではなく、あって当たり前のカルチャーとして日本に根付かせたいと、横浜のカフェ兼コミュニケーションスポット「TARptoTARP」とともにオンラインプラットフォーム「LOG(Life Over Ground)」を設立。日々の暮らしや、異なるジャンルの趣味とキャンプをつなげる活動を行っています。

「ただモノをつくって売っているだけでは、せっかくのブームがブームのまま終わってしまうかもしれない。そうならないようにと思いを巡らすなかで、日本のキャンプ文化に興味をもち、『neru design works』を応援してくれているアジアの人たちとのネットワークを構築しようと考えました。最近では日本の地方都市はもちろん、韓国、台湾、中国、タイなどにも積極的に出かけ、現地のメーカーやショップ、ユーザーの皆さんとのリレーションを強化しています。モノだけでなく、コミュニケーションや体験を通じて多くの方にキャンプの魅力を伝え、ブランドのファンになっていただけるように取り組んでいるんです」

重弘剛直氏・キャンプギアガレージブランド「neru design works」オフィスにて

そんなアウトドア業界の世界的カリスマ、インフルエンサーとなって久しい重弘さんですが、ブランドを立ち上げた2014年当時どころか、すでに大人気ブランドとなっていた3年前ですら、大手繊維メーカーに勤務するサラリーマンだったというのだから驚きです。

「なぜ繊維メーカーに就職したかといえば、純粋にものづくりをしたかったから。でも理系の専門知識がなければ素材メーカーでものづくりなんてできませんし、ずっと新規の用途開拓をする営業をしていました。例えば海外の水がキレイではない地域に、浄水装置を売り込みに行くような仕事です」

重弘さんが就職した2000年前後といえば、ちょうど日本企業の国内工場がどんどん中国など国外へと流出し、多数の中小メーカーが廃業へと追い込まれていたころ。繊維も半導体も、日本のものづくりが目に見えて弱体化していき、“メイド・イン・ジャパン”というブランドは有名無実化。気がつけば海外の製造委託先の工場にコストやスピードだけでなく、品質でも遅れを取るという逆転現象まで起きることもありました。

決して個人では抗うことのできないこの大きなうねりのなかで、なにか自分にできることはないか───そんな自問自答を繰り返した重弘さんがたどり着いたのが、「neru design works」というプライベートなプロジェクトだったのです。

「neru design works」のフラットバーナー用五徳

「アウトドアが大好き。DIYもブランドをはじめる前から好きで、キャンプ道具を自作したりしていました。するとちょうど10年前に、Instagram(日本版)が登場。アプリを触った瞬間に、『あ、これで時代が変わるな』とひらめいた。これしかない、と思ったわけです。だって広告費用なんか一銭も掛けずに、誰もが個人で、世界中に商品情報を発信できてしまうんですから」

そのひらめきが確信へと変わったのは、「neru design works」の記念すべきファーストプロダクトであるヌメ革製のOD(ガス)缶カバーをInstagram上で紹介したとき。投稿するやいなや、「欲しい」「購入したい」というコメントが相次いだといいます。

「長年会社員として営業に携わっていたので、商品をエンドユーザーにまで届ける”商流”を構築することが、いかに大変かということは身にしみて感じていました。だからこそ、個人でものづくりやビジネスをするなんて、できるわけがないと思い込んでいた。でも、Instagramが全然違う世界を見せてくれたんです。これさえあれば、作り手が直接ユーザーとつながることができるし、ビジネスができる。そこで自分がやりたいことを整理した10か年計画のロードマップを書いて、それに沿ってがむしゃらにやってきました。運良く7,8年くらいでその目標は達成できて、いまに至る、という感じですね」

「neru design works」のヌメ革製OD(ガス)缶カバー

いまやInstagramには、さまざまなガレージブランドの製品があふれかえる時代。だからこそモノそのものだけでなく「誰から買うか」を重視されるようになっており、近年は作り手として共感してもらえる存在でいられることも、常に心がけているという重弘さん。そんな重弘さんが手にもつOD缶カバーは、いまでも他人任せにせず、自らがすべて手作業でつくり続けているそう。非常に限られた生産数ゆえ、手に入りにくくなってしまうのも納得です。

「木や鉄、革などの素材がすごく好きなので、素材の良さを活かして可能な限りシンプルにつくるということを、このカバーからずっと変わらないブランドコンセプトとしています。あとは経年変化ってよく言いますが、僕は経年“優化”するものづくりを心がけている。つくるものも自分で使うものも、購入したときがベストな状態なのではなく、使うほどにどんどん良くなっていくようなものが大好きなんですよ」

ランドローバー ディフェンダーにシェビーバン、ヴォルクスワーゲン ヴァナゴンといった歴代のクルマ選びからも、重弘さんの一貫したこだわりや審美眼が強く感じられます。

「いまも現役であり続けている旧いクルマには、やっぱり時代や流行に左右されない普遍的な良さがあると感じています。それは、デザインやプロダクトでも同じこと。自分でものを選ぶときには、そういう価値観に従うことが多いですね」

重弘剛直氏 「neru design works」のアイテム 「neru design works」×DANNER LIGHT別注ブーツ

「なんでも素材が気になるし、会社員時代に合成繊維という“素材”を扱っていたせいもあって、なんでも手触りをチェックするのが癖になっていて(笑)。今日着ているこのTシャツも、触った瞬間にすごい高密度に編まれていることが分かりましたし、こんなに高密度なのにとても滑らかな肌触りであることにビックリしましたね」

重弘剛直氏・スビンプラチナムスムース素材のテーラードロングスリーブTシャツを着用している様子

「以前僕が扱っていたのはファッション向け原料ではありませんが、結局合成繊維というのは天然由来の優れた素材にどれだけ近づけるか、というところに行き着きます。さらに素材の良さをシンプルに活かすということをずっと考えながらものづくりをしてきた身からすれば、このTシャツはその最たるもの。こんなに素晴らしい特徴をもつ特別なコットン原料の良さを、そのまま味わえるようにシンプルなデザインで製品化しているんですから」

​重弘剛直氏・スビンプラチナムスムース素材のテーラードロングスリーブTシャツを着用している様子​

キャンプでもものづくりシーンでも、洋服は汚れることが大前提。動きやすいうえに汚れも気にならないブラックの「Tailored Long Sleeve T-shirt」がすっかり気に入り、かなりの頻度で着用しているという重弘さんは、Tシャツなどのアパレルも展開している自身のブランドにおけるものづくりについて、改めてその想いやこだわりを教えてくれました。

スビンプラチナムスムース素材のテーラードロングスリーブTシャツを着用している様子​

「ウチのような規模のブランドがつくるTシャツって、海外で大量に作られたボディを仕入れてロゴを入れたり、プリント加工したりして済ませているのがほとんどだと思います。もちろんその方が簡単で安上がりだし、意外と作りもしっかりしていたりする。だからそれらを否定はしないけれど、僕がやりたいのはカッコいいモノをつくりながら、日本のものづくりに貢献すること。だから今季製作したロンTも展開中のスウェットも、全部日本でパターンからつくって、縫製して、染色まで行っているんです。当然コストは掛かるし高くなってしまうんですけど、このやり方を変えるつもりはありません」

生地や縫製などの純粋な品質という意味では、日本製より海外製の大量生産品の方が優れている場合もあると明かす、重弘さん。それでも“メイド・イン・ジャパン”にこだわるのは、日本のものづくりを応援し、ともに持続可能性の高い活動を続けていきたいからだといいます。

「僕にはそこで働いてる人たちの顔が見えるし、お客さんにも伝えたいと思うんです。なかなか製品に載せて伝えるのは、難しい情報ではあるんですけどね(笑)。幸いなことに共感してくれる方は少なくない。それにパターンや細かいディテールなどのこだわりも、日本国内で日本の人につくってもらうほうがうまくいく。それだけでもやってる意味はあるのかな、と思いますね」

キャンプギアガレージブランド「neru design works」のアイテム​ キャンプギアガレージブランド「neru design works」の斧やハンマー​ キャンプギアガレージブランド「neru design works」オフィス​

「Tシャツの生地にしても、斧やハンマーの鍛冶にしても、ものづくりの技術って、1回途絶えさせてしまうともう戻ってこないんです。需要がなくなれば当然供給する人たちもいなくなってしまうので、その需要をどうやって掘り起こし続けるかという部分でも、貢献したいと思っています。そもそもブランドロゴに『0/0』というのを採用したのは、答えのないゼロ分のゼロという数式のように、自分のやることに制限を設けたくないから。仕事としては店舗の内装も手掛けているし、文章だって書く。ものづくりという概念にすら縛られたくはないんです」

アウトドアという自らのメインフィールドを拡張するような、暮らしのさまざまな場面を彩る唯一無二のプロダクトを創出。さらにはサステナブルなものづくり環境の発展にも寄与している「neru design works」こそ、真の“ライフスタイル”ブランドと言える存在なのかもしれません。そんなブランド創設から10年。次なる10年はあえてロードマップは用意せず、“余白”のある活動をしたいと重弘さんは言います。

「今日お会いしたのもそうですけれど、人生いろんな出会いがあるんじゃないですか。そのなかでやりたいことって絶対に見つかるはずで、目標に向かって“余白”のない状態で動いていると、新しく発見したことに割く時間やエネルギーが生まれない気がするんです。面白そうなことに出合ったら、それができるようにすぐシフトしたい。サラリーマン時代は独立という大きな目標に向かって全力で進めばよかったのですが、ここから先は、アンテナを広げて世界中のいろんな人たちとお会いしたいです。10年後は……、何やってるかまったくわからないですね(笑)」

重弘剛直氏​

重弘剛直(neru)​
キャンプギアガレージブランドの先駆け「0/0 neru design works(ネルデザインワークス)」代表。日本の優れたモノづくりの技術を独自のブランドコンセプトやデザインと融合し、唯一無二のギア、グッズ、アパレルなどを生み出す。2021年には日本にキャンプカルチャーを根付かせるプラットフォームとしての「LOG(Life Over Ground)」を立ち上げ、キャンプと音楽、ファッション、クルマなどがクロスオーバーした活動を展開中。また23年、ブランド創設以来オンラインを中心に活動してきたが、その世界観を実際に見て、触れられるギャラリー「MOLDS」を「OLD MOUNTAIN」「asimocrafts」と共同で東京・千駄ヶ谷にオープンした。
0/0 neru design works公式サイト
Instagram

Photos: Tohru Yuasa


約150年、生地の企画・製造・販売に携わってきた私たちだからこそ、自分たちが認めた生地を直接消費者に届け、その価値を知ってもらうことを第一に考えて開発したこだわりの商品です。

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